室内環境基準とは?ビル管理法・建築基準法・事務所衛生基準規則の空気環境を徹底解説
意匠設計をやっていた頃、「CO2は1000ppm以下」という数字だけは知っていたが、それがどの法律の何条に基づくのか、正直なところ意識したことがなかった。設備設計を学び始めて気づいたのは、室内の空気環境は1つの法律ではなく、3つの法令が重なり合って守られているということだ。
この記事を読むと、空調換気設備の設計条件のベースとなる「ビル管理法」「建築基準法」「事務所衛生基準規則」の室内空気環境の基準値が、それぞれ何を守っているのか、どこが同じでどこが違うのかがわかる。2022年(令和4年)4月施行の改正で変わった数値も反映した最新情報でお届けする。
3つの法令が室内空気環境を守る仕組み

室内の空気環境に関する法令は、管轄省庁も目的も異なる3本の柱で構成されている。
- ビル管理法(建築物衛生法):厚生労働省所管。特定建築物の利用者の衛生環境を守る
- 建築基準法:国土交通省所管。建物の構造・設備の最低基準を定める
- 労働安全衛生法(事務所衛生基準規則):厚生労働省所管。事務所で働く労働者の健康を守る
空調設備を設計するとき、この3つの法令のうち「どれが自分の建物に適用されるか」を判断する必要がある。延べ面積3,000m²以上の事務所ビルであれば、3つすべてが適用されるケースもある。
ビル管理法(建築物衛生法)の室内環境基準
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ビル管理法とは
正式名称は「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」。不特定多数の人が利用する一定規模以上の建物(特定建築物)に対して、環境衛生上良好な状態を維持するための基準を定めている。
特定建築物の条件は以下のとおりだ。
- 興行場、百貨店、店舗、事務所、旅館などの用途で、延べ面積3,000m²以上
- 学校教育法第1条に規定する学校で、延べ面積8,000m²以上
空気調和設備を設けている場合の空気環境基準(令和4年改正後)
空調設備を備えた特定建築物の居室では、以下の7項目の基準に適合するよう空気を調整しなければならない。
| 項目 | 基準値 | 補足 |
|---|---|---|
| 温度 | 18℃以上 28℃以下 | 令和4年改正で17℃→18℃に引き上げ。外気より室温を低くする場合、その差を著しくしないこと |
| 相対湿度 | 40%以上 70%以下 | — |
| 気流 | 0.5m/s以下 | 実務上は0.3m/s以下が望ましいとされる |
| CO2(二酸化炭素) | 1,000ppm以下 | 換気量の指標として最も重視される |
| CO(一酸化炭素) | 6ppm以下 | 令和4年改正で10ppm→6ppmに強化。旧基準の特例(20ppm)は廃止 |
| 浮遊粉じん量 | 0.15mg/m³以下 | — |
| ホルムアルデヒド | 0.1mg/m³(≒0.08ppm)以下 | 新築・大規模修繕後、使用開始後の最初の6月1日〜9月30日に測定 |
令和4年(2022年)改正のポイント
2022年4月1日施行の改正で、2つの重要な変更があった。
1. 一酸化炭素の基準が10ppm → 6ppmに強化
WHOが2010年に改定した室内空気質ガイドラインの数値を踏まえたもの。近年は大気中のCO濃度が大幅に改善されたため、旧基準にあった「外気のCO濃度が10ppmを超える場合は20ppmまで許容」という特例も廃止された。
2. 温度の下限が17℃ → 18℃に引き上げ
こちらもWHOの室内環境ガイドライン(2018年)で推奨された値に合わせた変更だ。冬季の室温設定に影響するため、暖房能力の設計条件に注意が必要になる。
測定の頻度と方法
空気環境の測定は2か月に1回(年6回)実施する。測定点は各階の居室中央部、床上75cm以上150cm以下の高さで行う。CO2・CO・浮遊粉じんは1日2回測定した平均値で判定する。
建築基準法における室内環境の規定

建築基準法は「建物そのものの設備基準」を定める法律であり、ビル管理法のような「維持管理基準」とは性格が異なる。室内環境に関連する主な規定は3つある。
居室の換気に有効な開口部(法第28条第2項)
自然換気において、居室には床面積の1/20以上の換気に有効な開口部を設けなければならない。この基準を満たせない場合は、政令で定める技術的基準に従った換気設備の設置が必要になる。
シックハウス対策と24時間換気(2003年施行)
2003年の法改正で、居室を有するすべての建物に以下の対策が義務付けられた。
- 内装仕上げ材の制限:ホルムアルデヒドの発散量に応じて、建材の使用面積が制限される(F☆☆☆☆等級など)
- 24時間機械換気設備の設置:換気回数0.5回/h以上の機械換気を常時運転する
シックハウス対策は住宅に限らずすべての居室が対象であり、意匠設計者にとっても確認申請の必須チェック項目だ。なお、24時間換気の詳細については別記事で詳しく解説している。
中央管理方式の空気調和設備(施行令第129条の2の6第3項)
中央管理方式の空調設備を設ける場合、居室の空気が以下の基準に適合するよう調整できる性能を有することが求められている。
| 項目 | 基準値 |
|---|---|
| 温度 | 17℃以上 28℃以下 |
| 相対湿度 | 40%以上 70%以下 |
| CO2 | 1,000ppm以下 |
| CO | 10ppm以下 |
| 浮遊粉じん | 0.15mg/m³以下 |
| 気流 | 0.5m/s以下 |
注目すべき点は、この基準値はビル管理法の令和4年改正前の旧基準と同じ数値であるということだ。ビル管理法は温度18℃以上・CO 6ppm以下に改正されたが、建築基準法施行令の数値は現時点で17℃以上・CO 10ppm以下のままとなっている。実務上は、特定建築物であれば当然ビル管理法の厳しい方の基準が適用される。
事務所衛生基準規則の空気環境基準

事務所衛生基準規則とは
労働安全衛生法に基づき、事務所で働く労働者の衛生環境を守るための省令。ビル管理法が「建物の利用者」を対象とするのに対し、こちらは「事務所で働く労働者」を対象としている。特定建築物に該当しない小規模な事務所でも適用される。
一般の換気基準(第3条)と空調設備を設けた場合の基準(第5条)
事務所衛生基準規則には2段階の基準がある。
一般の換気基準(空調の有無を問わない最低基準)
- CO:50ppm以下
- CO2:5,000ppm以下
- 換気に有効な窓の面積:床面積の1/20以上(十分な換気設備がある場合は代用可)
- 気積:労働者1人あたり10m³以上(床面から4mを超える高さは除く)
空気調和設備・機械換気設備を設けた場合の基準(第5条)
空調設備を設けている場合は、供給する空気がビル管理法と同等の厳しい基準に適合しなければならない。
| 項目 | 基準値 |
|---|---|
| 温度 | 18℃以上 28℃以下 |
| 相対湿度 | 40%以上 70%以下 |
| CO2 | 1,000ppm以下 |
| CO | 10ppm以下 |
| 浮遊粉じん | 0.15mg/m³以下 |
| 気流 | 0.5m/s以下 |
つまり、空調のない一般の事務室ではCO2が5,000ppm以下でよいが、空調を設けた事務室ではビル管理法と同じ1,000ppm以下が求められる。この差は約5倍であり、法令を読み間違えると設計条件が大きく変わってしまう。
3つの法令の基準値を横断比較する

設計実務では「結局どの数値を使えばよいのか」が最大の関心事だ。以下の表で横断的に比較する。
| 項目 | ビル管理法(R4改正後) | 建築基準法施行令 | 事務所則(空調設備あり) |
|---|---|---|---|
| 温度 | 18〜28℃ | 17〜28℃ | 18〜28℃ |
| 相対湿度 | 40〜70% | 40〜70% | 40〜70% |
| 気流 | 0.5m/s以下 | 0.5m/s以下 | 0.5m/s以下 |
| CO2 | 1,000ppm以下 | 1,000ppm以下 | 1,000ppm以下 |
| CO | 6ppm以下 | 10ppm以下 | 10ppm以下 |
| 浮遊粉じん | 0.15mg/m³以下 | 0.15mg/m³以下 | 0.15mg/m³以下 |
大半の項目は3つの法令で共通だが、COの基準値だけはビル管理法が6ppmと最も厳しい。特定建築物に該当する建物では、ビル管理法の基準をクリアしていれば他の法令も自動的に満たすことになる。
空調設備に求められる4つの役割

これらの法定基準値をクリアするために、空調設備は以下の4つの要素をコントロールする。
1. 温度のコントロール(冷暖房)
外部からの日射や内部発熱に対して、空気を冷却・加熱し、18〜28℃の範囲に維持する。冬季に室温を18℃以上に保つための暖房能力の確保は、令和4年の改正で1℃分だけ厳しくなった点に注意が必要だ。
2. 湿度のコントロール(除加湿)
夏季は冷却に伴う除湿、冬季は加湿器による加湿で、相対湿度40〜70%を維持する。とくに冬季のオフィスは相対湿度が20%台まで下がることも珍しくなく、加湿設計は空調設計の重要な検討事項になる。
3. 気流のコントロール
吹出口の配置・風速を適切に設計し、人に直接冷風が当たるコールドドラフトを防ぎつつ、室内の空気が淀まないよう0.5m/s以下の緩やかな気流をつくる。
4. 清浄度のコントロール(換気とろ過)
空気中の粉じんはフィルターで捕集し、CO2やCOなどのガス成分は新鮮な外気を導入する「換気」で希釈する。CO2を1,000ppm以下に維持するには、一般に1人あたり毎時約30m³の外気導入が必要とされている。
建築設備士試験で問われるポイント
建築設備士試験では、3つの法令の基準値の違い、特にCO2の基準値(1,000ppmと5,000ppmの使い分け)や、令和4年改正の内容が頻出する。以下の点を整理しておきたい。
- ビル管理法の適用対象(特定建築物)の面積要件:3,000m²以上(学校は8,000m²以上)
- CO2の1,000ppmは「換気の指標」として使われる代表的な数値
- 建築基準法の換気開口面積の基準は床面積の1/20以上
- 24時間換気の換気回数は0.5回/h以上
- 令和4年改正でCOは6ppmに強化、温度下限は18℃に引き上げ
よくある質問(FAQ)
Q. ビル管理法と建築基準法の室内環境基準は同じですか?
ほぼ同じだが、令和4年の改正でビル管理法は温度の下限が18℃、COが6ppmに強化された。一方、建築基準法施行令は温度17℃以上、CO 10ppm以下のままであり、差が生じている。実務上は、特定建築物であればビル管理法の厳しい方の基準に従う。
Q. CO2の基準が1,000ppmと5,000ppmの2つあるのはなぜですか?
事務所衛生基準規則では、一般の換気基準(第3条)がCO2 5,000ppm以下、空調設備を設けた場合の基準(第5条)がCO2 1,000ppm以下と規定されている。5,000ppmは人体への急性影響を防ぐ最低基準、1,000ppmは快適で衛生的な環境を維持するための上位基準という位置づけだ。空調設計では原則として1,000ppm以下を設計条件とする。
Q. 24時間換気とビル管理法の換気は別のものですか?
別の制度だ。24時間換気は建築基準法に基づくシックハウス対策で、ホルムアルデヒド等の化学物質を排出するために居室の空気を0.5回/h以上入れ替えることを求めている。ビル管理法の換気はCO2濃度を1,000ppm以下に維持するための外気導入量に関する基準であり、根拠法も目的も異なる。ただし実務上は、1つの換気システムで両方の要件を満たすように設計することが多い。
Q. 特定建築物に該当しない小規模なオフィスの空気環境基準は?
事務所衛生基準規則が適用される。空調設備がある場合はビル管理法と同等の基準(CO2 1,000ppm以下など)に適合させる必要がある。また、ビル管理法第4条第3項により、特定建築物以外でも多数の者が利用する建物は、管理基準に従って維持管理するよう努めなければならないとされている(努力義務)。
本記事は2025年時点の法令情報に基づいています。法改正により基準値が変更される可能性があります。
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- 各法令の基準値の網羅的な一覧表と実務での使い分け
- CO2濃度から必要換気量を算出する計算演習
- 空調設備の設計条件チェックリスト
