熱伝導・熱伝達・放射の違い|壁のU値と空調負荷を数値例で理解する
冬の窓際に立つと、室温はそれほど低くないのに、ひんやり感じることがあります。
夏は反対に、エアコンが動いていても、日差しの入る窓際だけ暑く感じることがあります。
どちらも、空気の温度だけを見ていると説明しにくい現象です。建物の中では、壁や窓を通る熱、動く空気が運ぶ熱、窓や壁面から届く放射熱が同時に関わっています。
この記事では、名前が似ていて混同しやすい「熱伝導」「対流」「放射」「熱伝達」を、身近な場面から順に見ていきます。
後半では、多層壁の熱貫流率(U値)と、壁から生じる熱負荷を数値例で計算します。設備設計だけでなく、外壁や窓の仕様を決める意匠設計、断熱材の納まりを確認する施工・監理にもつながる内容です。
熱は、温度の高い側から低い側へ移動する
まず押さえたいのは、熱が温度の高い側から低い側へ移動することです。
冬なら室内から屋外へ、夏の昼間なら屋外から室内へ向かう場面が多くなります。ただし、熱の移動方法は一つではありません。

熱伝導|材料の中を熱が伝わる
熱い鍋に金属スプーンを入れておくと、しばらくして持ち手まで熱くなります。材料そのものは移動していませんが、熱は金属の中を伝わっています。
これが熱伝導です。
建物では、外装材、コンクリート、断熱材、石こうボードなど、それぞれの材料の中で熱伝導が起こります。
材料の熱の伝わりやすさを表すのが、熱伝導率 λ〔W/(m・K)〕です。同じ厚さで比べるなら、λが小さい材料ほど熱を通しにくいと読めます。
ただし、λはあくまで「材料そのもの」の値です。壁全体の性能を知るには、材料の厚さと、ほかの層も一緒に見る必要があります。
対流|動く空気や水が熱を運ぶ
暖房した空気が上へ動き、冷えた空気が下がる。このように、空気や水などの流体が動いて熱を運ぶ現象が対流です。
温度差によって自然に生じるものを自然対流、ファンやポンプで動かすものを強制対流といいます。
エアコンの吹出し気流や温水配管の流れも、熱を運ぶという点では対流の仲間です。
放射|離れた面から熱が届く
日なたに出ると、気温が同じでも暖かく感じます。これは太陽から届く放射の影響です。
室内でも、人体と窓・壁・天井・床の表面との間で放射による熱のやり取りが起きています。
冬の窓際で寒く感じるときは、冷えた窓面への放射放熱が関わる場合があります。空調計画では、室温だけでなく、周囲の表面温度も快適性に影響することを覚えておくと、窓際の不快感を考えやすくなります。
「対流」と「熱伝達」は、同じ言葉ではない
この二つは、最初に学ぶときに迷いやすいところです。
対流は、空気や水が動いて熱を運ぶ現象を指します。一方、建築の伝熱計算でいう熱伝達は、空気と壁表面の間で行われる熱の受け渡しを表します。
たとえば冬の外壁では、室内空気から内壁表面へ熱が渡り、壁の中を伝導し、外壁表面から外気へ渡ります。
表面での受け渡しを熱伝達、材料内部の移動を熱伝導と考えると、位置の違いが見えやすくなります。
実務で用いる表面熱伝達抵抗や表面熱伝達率は、室内側・室外側、熱流の向き、風などの条件で変わります。計算方法や制度で指定された条件を確認して使います。
外気から室内までの一連の流れが「熱貫流」
壁を通る熱は、断熱材の中だけを見ても分かりません。
外気と外壁表面の間、壁を構成する各材料、内壁表面と室内空気の間を、熱が順番に移動します。この一連の流れが熱貫流です。

壁全体の熱の通りやすさは、熱貫流率 U〔W/(m²・K)〕で表します。
U値は小さいほど、壁や窓全体として熱を通しにくいことを示します。
ここで、似た記号を一度整理しておきましょう。
λ〔W/(m・K)〕は、材料そのものの熱の伝わりやすさです。
R〔m²・K/W〕は、厚さを含めた一つの層の熱の伝わりにくさです。大きいほど熱を通しにくくなります。
U〔W/(m²・K)〕は、表面と各材料層を含む部位全体の熱の通りやすさです。小さいほど熱を通しにくくなります。
λとUは、どちらも「小さいほど熱を通しにくい」と読めますが、見ている対象が違います。λは材料、Uは壁や窓などの部位全体です。
数値例1|多層壁のU値を求める
ここからは、計算の順番を具体的に追ってみます。
数値は考え方を学ぶための仮定値です。実際の設計には、対象制度の計算条件や採用製品の性能値を使ってください。
1. 各材料の熱抵抗を求める
材料一層の熱抵抗Rは、厚さdを熱伝導率λで割って求めます。
R = d ÷ λ
たとえば、厚さ100mm、λ=0.045 W/(m・K)の断熱材なら、先に100mmを0.100mへ直します。
R = 0.100 ÷ 0.045 = 2.22 m²・K/W
mmのまま100を式に入れると、結果が1000倍ずれてしまいます。計算問題では、最初に厚さの単位を見る習慣を付けると防ぎやすいミスです。
2. 表面と各層の熱抵抗を足す
次の外壁を、室外側から並べて考えます。
- 室外側表面の熱抵抗:0.04 m²・K/W
- モルタル12mm、λ=1.50:R=0.012÷1.50=0.008 m²・K/W
- コンクリート150mm、λ=1.60:R=0.150÷1.60=0.094 m²・K/W
- 断熱材100mm、λ=0.045:R=0.100÷0.045=2.222 m²・K/W
- 石こうボード12mm、λ=0.22:R=0.012÷0.22=0.055 m²・K/W
- 室内側表面の熱抵抗:0.11 m²・K/W
これらを足すと、合計熱抵抗は次のようになります。
R合計 = 0.04 + 0.008 + 0.094 + 2.222 + 0.055 + 0.11 = 約2.53 m²・K/W
3. 合計熱抵抗の逆数を取る
壁全体のU値は、合計熱抵抗の逆数です。
U = 1 ÷ 2.53 = 約0.40 W/(m²・K)
手順は、各層をRへ直す → Rを全部足す → 最後に一度だけ逆数を取る、の三段階です。

数値例2|外壁から入る熱負荷を求める
U値が求まると、壁から出入りする熱量を計算できます。
定常状態の単純な例では、熱量Qは次の式で考えます。
Q = U × A × ΔT
先ほどの壁を、面積100m²、室内外温度差20Kとして計算してみます。
Q = 0.40 × 100 × 20 = 800W
この条件では、外壁の温度差による熱負荷は800Wです。
では、断熱仕様などが変わり、U値が0.80 W/(m²・K)になったらどうでしょうか。
Q = 0.80 × 100 × 20 = 1,600W
同じ面積・同じ温度差なら、U値が2倍になると熱量も2倍になります。外皮仕様を早めに設備担当へ伝えたい理由が、数値で見えてきます。
ただし、実際の冷暖房負荷は外壁の熱貫流だけでは決まりません。窓の日射、換気・外気、人・照明・機器の発熱、蓄熱の影響などを加えて検討します。
窓では「温度差」と「日射」を分ける
窓もU値で熱貫流を評価しますが、夏の冷房負荷では日射も大きく関わります。
ここで「U値が小さければ、日射も少ない」とまとめて考えないようにします。
U値が表すのは、主に室内外の温度差による熱の通りやすさです。日射によって室内へ入る熱は、日射熱取得率、方位、窓面積、庇、ブラインドなどの条件を別に見ます。

意匠設計では、窓の大きさや方位を決める段階から設備負荷が動き始めています。
設備設計では、ガラスのU値だけでなく、日射遮蔽性能、外部日除け、ブラインドの運用条件まで確認すると、計算条件と実際の使われ方を合わせやすくなります。
設計・施工で確認したいポイント
計算書のU値が適切でも、図面や施工で断熱層が途切れると、想定した性能にならない場合があります。
基本計画から施工・維持管理まで、担当ごとに見る場所を整理しておきましょう。
☐ 外壁・屋根・床の材料構成と厚さが、意匠図・構造図・仕様書で一致している
☐ 柱・梁、庇、バルコニー、金属下地など、断熱層を横切る熱橋の位置を確認している
☐ 窓の面積、方位、ガラス・サッシ性能、庇やブラインドの条件を設備担当へ渡している
☐ 負荷計算後に、空調容量だけでなく、窓・断熱・日射遮蔽へ見直せる内容を意匠側へ返している
☐ 施工時に、断熱材の欠損、押し込み、隙間、窓まわりの連続性を確認している
☐ 結露や窓際の不快感が出たとき、空調機だけでなく外皮表面温度や日射も確認している
建築設備士試験との関係|単位から式を選ぶ
この内容は、空気調和設備の伝熱計算や、外皮性能に関する選択肢を読むときに役立ちます。
公式を先に思い出そうとすると混乱しやすいため、問題文では次の順番で条件を拾います。
1. 何を求める問題かを見る
材料一層ならλと厚さからRを求めます。壁全体なら各層のRを足してUを求めます。面積と温度差まで与えられていれば、Q=UAΔTで熱量を求める問題かもしれません。
2. 単位で用語を見分ける
- W/(m・K):熱伝導率λ。材料の値
- m²・K/W:熱抵抗R。大きいほど熱を通しにくい
- W/(m²・K):熱貫流率U。小さいほど熱を通しにくい
- W:熱量Q。この例ではU×面積×温度差で求める
λとUは単位がよく似ています。m²があるか、材料の話か部位全体の話かを見ると区別できます。
3. 厚さの単位をmへ直す
50mmは0.050m、100mmは0.100mです。
ここを直してからR=d/λへ進みます。
4. 多層壁はRを足してから逆数を取る
各層のU値を足すのではありません。
材料ごとにRへ直し、表面熱抵抗も含めて合計し、最後にU=1/Rとします。
5. 窓の問題では日射の語を探す
「方位」「日射遮蔽」「日射熱取得率」「庇」が出てきたら、温度差による熱貫流だけの話ではない可能性があります。
U値と日射熱取得を同じ性能として扱っていないか、選択肢を読み直します。
間違えやすいポイント
断熱材のλだけで、壁全体の性能を決めてしまう
λが小さい断熱材でも、厚さが不足すればRは小さくなります。壁全体では、ほかの材料、表面、熱橋も確認します。
断熱材を厚くすれば、壁の熱量が必ず同じ割合で減ると考える
材料層のRは厚さに比例しますが、壁全体には表面やほかの層のRも含まれます。厚さを2倍にしても、壁全体のU値が必ず半分になるとは限りません。
窓のU値だけで夏の日射対策を決める
温度差による熱貫流と日射熱取得は別に見ます。方位、ガラス、外部日除け、ブラインドの使い方も確認します。
計算値だけを見て、断熱材の連続性を見落とす
計算の前提となる断熱層が、柱・梁・金属下地・開口部まわりで途切れていないかを図面と現場で確認します。
まとめ
熱伝導は材料の中、対流は動く空気や水、放射は離れた面の間で起こる熱移動です。
壁全体を見るときは、表面での熱伝達と材料内部の熱伝導を一続きに考え、U値で表します。
計算では、厚さをmへ直し、R=d/λで各層の熱抵抗を求めます。Rを足したあとに逆数を取ればU値になり、U×面積×温度差から壁の熱量を求められます。
実務では、U値だけで終わらせず、熱橋、窓の日射、断熱材の連続性まで確認してください。外皮の条件を早めに共有すると、空調容量を決めてから外壁や窓へ戻る手間を減らせます。
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