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湿り空気線図の読み方入門|空調設計に必須の7要素を初心者向けに解説

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意匠設計をしていた頃、空調の打合せで「空気線図上で確認すると…」と言われるたびに、あの複雑な線だらけのチャートを前に固まっていました。しかし実際に読み方を覚えてみると、空気線図は空調設計における最強のツールだとわかります。

この記事では、湿り空気線図とは何か、図を構成する7つの要素(乾球温度・湿球温度・絶対湿度・相対湿度・エンタルピ・露点温度・比容積)の意味と読み方、そして「2つの値がわかれば残りが全部わかる」という空気線図の原則を、初心者にもわかりやすく解説します。

湿り空気線図とは?――空気の「カルテ」を1枚にまとめた設計ツール

私たちの周りにある空気は、純粋な気体ではなく、必ず水蒸気を含んでいます。この水蒸気を含んだ空気を「湿り空気」と呼びます。

湿り空気線図(しめりくうきせんず)は、この湿り空気が持つ温度・湿度・熱量などの状態を、1枚のチャートに表したものです。正式にはh-x線図(エイチエックスせんず)とも呼ばれ、比エンタルピ(h)と絶対湿度(x)を座標軸にとった斜交座標の図になっています。

空気線図という名前ですが、やっていることは健康診断のカルテに似ています。体温・血圧・体重のように、空気にも「温度はいくつか」「水分はどれだけ含んでいるか」「エネルギーはどれだけ持っているか」といった複数の状態量があり、それを1枚で把握できるのがこのチャートです。

空気線図はどんな場面で使うのか

空調設備の設計では、以下のような場面で空気線図を日常的に使います。

  • 空調負荷計算:エアコンや空調機にどれだけの能力が必要かを計算する
  • 結露判定:壁や窓の表面温度と空気の露点温度を比較して結露リスクを判断する
  • 空調機内の状態変化解析:冷却・加熱・加湿・除湿の各プロセスで空気がどう変化するかを追う
  • 外気処理の検討:外気と還気を混合した際の状態点を求め、必要な空調処理を決定する

このように、空調設計のほぼすべての検討に空気線図が関わってきます。

空気線図の3つの種類

空気線図にはNC線図・LC線図・HC線図の3種類がありますが、扱う温度範囲が異なるだけで、構成は同じです。

種類乾球温度の範囲主な用途
NC線図−10℃〜50℃一般的な空調設計(最も多く使用)
LC線図−40℃〜10℃冷凍庫・低温環境
HC線図0℃〜120℃デシカント空調・乾燥炉

建築の空調設計では、ほぼNC線図だけを使います。本記事でもNC線図を前提に説明します。

空気線図の最大の特徴:「2つの値がわかれば、すべてわかる」

空気線図を使ううえで最も重要な原則がこれです。

独立な2つの状態量がわかれば、空気線図上で1つの点(状態点)が定まり、残りのすべての状態量を読み取ることができます。

たとえば「乾球温度26℃、相対湿度50%」という2つの情報があれば、空気線図上でその交点を見つけるだけで、絶対湿度、比エンタルピ、露点温度、湿球温度、比容積がすべてわかります。

「独立な2つ」とは、互いに独立した組み合わせのことです。以下のような組み合わせが代表的です。

  • 乾球温度 + 相対湿度
  • 乾球温度 + 湿球温度
  • 乾球温度 + 絶対湿度
  • 乾球温度 + 比エンタルピ

実務では「乾球温度+相対湿度」の組み合わせで状態点を求めるケースが最も多いです。

空気線図を構成する7つの要素と読み方

ここからは、空気線図上に描かれた各要素を1つずつ解説していきます。それぞれについて「何を表しているのか」「どこに描かれているのか」「空調設計のどこで使うのか」を整理します。

1. 乾球温度(DB:Dry Bulb Temperature)

定義:いわゆる普通の「気温」です。乾いた状態の温度計で測った温度を指します。空調設計で「温度」と言えば、基本的にこの乾球温度のことです。

単位:℃

空気線図上の位置:横軸(下辺)に目盛りがあり、そこから上に向かって伸びる**縦線(垂直線)**として描かれています。空気線図の中で最もわかりやすい軸です。

空調設計での用途:室内設定温度(冷房26℃、暖房22℃など)、設計用外気温度、吹出し温度の設定など、あらゆる場面で基準になる値です。

2. 湿球温度(WB:Wet Bulb Temperature)

定義:温度計の感温部を湿らせたガーゼで包み、通風させて測った温度です。水分が蒸発する際に周囲から気化熱を奪うため、乾球温度よりも低くなります。空気が乾燥しているほど蒸発が激しくなり、乾球温度との差が大きくなります。

単位:℃

空気線図上の位置:左上から右下へ向かう**斜めの破線(または細線)**として描かれています。飽和線(相対湿度100%の曲線)上では、乾球温度と湿球温度が一致します。

空調設計での用途:冷却塔の設計で冷却水温度を決定する際の基準として重要です。冷却塔は湿球温度に近い温度まで水を冷やす装置であるため、夏期の湿球温度が設計条件になります。

3. 絶対湿度(x:Absolute Humidity)

定義:乾き空気1kgに対して、実際にどれだけの質量の水蒸気が含まれているかを表す値です。温度に関係なく、空気中の水分の「実量」を示します。

単位:kg/kg(DA) ※DAはDry Air(乾き空気)の略

空気線図上の位置:右側の縦軸に目盛りがあり、そこから左に向かって伸びる**水平線(横線)**として描かれています。

空調設計での用途:加湿量・除湿量の計算に使います。空気を冷却して除湿した場合、絶対湿度の差に風量と空気密度を掛ければ、除去した水分量がわかります。相対湿度と違って温度変化に左右されないため、水分の出入りを定量的に把握するのに適しています。

代表的な数値例

条件絶対湿度
夏期外気(東京)35℃・60%RH約0.0214 kg/kg(DA)
冷房室内 26℃・50%RH約0.0105 kg/kg(DA)
冬期外気(東京)0℃・40%RH約0.0015 kg/kg(DA)
暖房室内 22℃・40%RH約0.0065 kg/kg(DA)

この表を見ると、夏の外気は室内の約2倍の水分を含んでいることがわかります。この差分が外気を取り込んだ際の潜熱負荷になります。

4. 相対湿度(φ / RH:Relative Humidity)

定義:天気予報でおなじみの「湿度○%」がこれです。その温度の空気が含むことのできる最大水蒸気量(飽和水蒸気量)に対して、実際に含まれている水蒸気量の割合を百分率で表したものです。

単位:%

空気線図上の位置:左下から右上へ向かって弧を描く曲線として描かれています。最も左側の曲線が相対湿度100%(飽和線)で、右に行くほど相対湿度が下がります。

ポイント:相対湿度と絶対湿度の違いを理解する

意匠設計者がとくにつまずきやすいのが、この2つの湿度の違いです。身近な例で整理しましょう。

コップに例えると、コップの大きさが「飽和水蒸気量」、入っている水の量が「絶対湿度」、コップに対する水の割合が「相対湿度」です。温度が上がるとコップが大きくなるため、水の量が同じでも「割合」は下がります。

冬に暖房すると部屋が乾燥するのはこの原理です。外気0℃・50%RHの空気を室内に取り込んで22℃まで暖めると、水分量(絶対湿度)は変わらないのにコップ(飽和水蒸気量)が大きくなるため、相対湿度は約12%まで低下します。

5. 比エンタルピ(h:Specific Enthalpy)

定義:乾き空気1kgあたりの湿り空気が持つ全熱量(顕熱+潜熱)です。0℃の乾き空気を基準(h=0)として計算されます。

単位:kJ/kg(DA)

空気線図上の位置:左上から右下へ向かう斜めの実線として描かれています。湿球温度の線と似た方向ですが、わずかに傾きが異なります。目盛りは図の左上外側に記載されています。

計算式(参考):

h = 1.006t + x(2501 + 1.86t)

ここで、tは乾球温度[℃]、xは絶対湿度[kg/kg(DA)]です。右辺の第1項(1.006t)が乾き空気の顕熱、第2項のうち2501xが水蒸気の潜熱(0℃で蒸発するために必要な熱量)、1.86txが水蒸気の顕熱にあたります。

空調設計での用途:空調機の必要能力を計算する際に使います。空気のエンタルピ差に風量と空気密度を掛けると、空調機が処理すべき熱量が求められます。

基本的な計算例

室内条件(26℃・50%RH、h≒53 kJ/kg)の空気と、夏期外気条件(35℃・60%RH、h≒93 kJ/kg)の空気のエンタルピ差は約40 kJ/kgです。外気を1,000 m³/h導入する場合の外気負荷は以下のように求めます。

Q = ρ × V × Δh ÷ 3,600 Q = 1.2 × 1,000 × 40 ÷ 3,600 ≒ 13.3 kW

ρ:空気密度(≒1.2 kg/m³)、V:風量[m³/h]、Δh:エンタルピ差[kJ/kg]

この計算から、外気1,000 m³/hを室内条件まで処理するために約13.3 kWの冷却能力が必要だとわかります。エンタルピは温度だけでなく水分の影響も含んでいるため、「温度差だけで負荷を計算すると実態と大きくずれる」ことを理解するための重要な概念です。

6. 露点温度(DP:Dew Point Temperature)

定義:空気中の水蒸気量を変えずに温度だけを下げていったとき、水蒸気が飽和状態(相対湿度100%)に達して結露が始まる温度です。

単位:℃

空気線図上の読み方:対象の状態点から左へ水平に移動し(=絶対湿度を一定に保ちながら温度を下げるイメージ)、飽和線(相対湿度100%の曲線)にぶつかった点の乾球温度が露点温度です。

空調設計での用途:結露防止対策の判断基準です。壁や窓ガラスの表面温度が室内空気の露点温度を下回ると、表面で結露が発生します。断熱性能の検討では、室内側の表面温度が露点温度を上回るかどうかが設計判断の分岐点になります。

代表的な数値例

室内条件露点温度
26℃・50%RH約15℃
26℃・60%RH約18℃
22℃・40%RH約8℃

たとえば冷房時の室内が26℃・50%RHの場合、露点温度は約15℃です。冷水配管の表面温度がこれを下回ると結露するため、配管の保温施工が必要になります。

7. 比容積(v:Specific Volume)

定義:乾き空気1kgあたりの湿り空気の体積です。密度(kg/m³)の逆数にあたります。

単位:m³/kg(DA)

空気線図上の位置:左上から右下へ向かう間隔の広い斜めの実線として描かれています。

空調設計での用途:風量の単位換算で使います。空調計算では質量基準(kg/h)で計算することがありますが、ダクト設計は体積基準(m³/h)で行うため、比容積を使って換算します。一般的な空調設計では、空気密度を1.2 kg/m³(比容積 約0.833 m³/kg)と近似して計算することが多いです。

空気線図の読み取り演習:乾球温度26℃・相対湿度40%の場合

実際に空気線図から値を読み取る手順を確認しましょう。

手順①:横軸から乾球温度26℃の縦線を見つける

手順②:相対湿度40%の曲線を見つける

手順③:2つの線の交点に印をつける(=これが状態点)

手順④:状態点から各要素を読み取る

  • 状態点から右へ水平に移動 → 右の縦軸で絶対湿度を読む → 約0.0084 kg/kg(DA)
  • 状態点から左上の斜線に沿って移動 → 外側の目盛りで比エンタルピを読む → 約47.5 kJ/kg(DA)
  • 状態点から左へ水平に移動し飽和線にぶつかった点 → その乾球温度が露点温度 → 約12℃
  • 状態点を通る湿球温度の斜線 → 湿球温度 → 約18℃
  • 状態点を通る比容積の斜線 → 比容積 → 約0.862 m³/kg

最初は線の区別がつきにくいですが、まず「乾球温度=縦線」「絶対湿度=横線」「相対湿度=曲線」の3つを確実に覚えるところから始めると、混乱しにくくなります。

空気線図で見る空気の基本的な状態変化

空気線図が読めるようになったら、次は空気の状態変化を線図上でたどってみましょう。ここでは代表的な4つのパターンの概要を紹介します。

加熱(暖房):水平に右へ移動

空気をヒーターで暖めると、水分量(絶対湿度)は変わらず、温度だけが上がります。空気線図上では右方向への水平移動で表されます。相対湿度は低下します。冬場に暖房で空気が乾燥するのは、このプロセスが原因です。

冷却(冷房・露点到達前):水平に左へ移動

空気を冷やす場合、露点温度に達するまでは水分量が変わらないため、左方向への水平移動になります。温度だけが下がり、相対湿度は上昇します。

冷却除湿(露点到達後):飽和線に沿って左下へ移動

さらに冷やして露点温度を下回ると、水蒸気が凝縮して水滴になります。空気線図上では飽和線に沿って左下方向へ移動します。温度と絶対湿度の両方が低下します。空調機の冷却コイルで行われる除湿は、このプロセスです。

加湿:上方向(蒸気加湿)または左上方向(水加湿)へ移動

蒸気加湿の場合は、ほぼ垂直に上方向へ移動します(温度はほとんど変わらず、水分だけが増える)。水噴霧加湿の場合は、気化熱で温度が下がりながら湿度が上がるため、左上方向への移動になります。

これらの状態変化の詳しい計算方法については、別記事「空気の加熱と冷却プロセス」「空気の加湿と除湿プロセス」で解説します。

建築設備士試験での出題ポイント

空気線図は建築設備士試験でも頻出テーマです。以下のポイントはとくに問われやすいので押さえておきましょう。

  • 2つの独立な状態量から他の状態量を求める:乾球温度と湿球温度(または相対湿度)が与えられ、絶対湿度や露点温度を求めさせる問題
  • 露点温度の求め方:状態点から水平に左へ移動し、飽和線にぶつかった点が露点温度
  • 顕熱変化と潜熱変化の区別:加熱・冷却は水平移動(顕熱変化)、加湿・除湿は垂直方向の変化を伴う(潜熱変化)
  • 相対湿度100%(飽和線上)では乾球温度=湿球温度=露点温度

よくある質問(FAQ)

Q. 空気線図は大気圧が変わっても使えますか?

A. 一般的な空気線図は標準大気圧(101.325 kPa)を前提に作成されています。標高が高い場所など、大気圧が標準と大きく異なる環境では、計算式を用いて補正する必要があります。通常の建築設計では標準大気圧の空気線図をそのまま使って問題ありません。

Q. 相対湿度と絶対湿度、設計ではどちらを見ればよいですか?

A. 用途によって使い分けます。室内の快適性を判断するときは相対湿度(冷房時50%前後を目安にする)、加湿量・除湿量を計算するときは絶対湿度を使います。空調機の能力計算では、温度だけでなく水分の変化も考慮する必要があるため、比エンタルピを使って顕熱と潜熱を合わせた全熱で計算するのが基本です。

Q. 空気線図と空調機選定の関係は?

A. 空調機の必要能力は、室内空気と給気(または外気)のエンタルピ差と風量から計算します。空気線図で2つの状態点を求め、そのエンタルピ差を読み取ることで、空調機の処理熱量がわかります。この値が空調機のカタログスペック(冷却能力・加熱能力)と比較する基準になります。

Q. 空気線図上で「斜交座標」とは何ですか?

A. 通常のグラフは縦軸と横軸が直角に交わりますが、空気線図(h-x線図)では比エンタルピ(h)の軸と絶対湿度(x)の軸が斜めに交差しています。これを斜交座標といいます。このおかげで、エンタルピの等値線(顕熱+潜熱が同じ線)と温度の等値線が異なる方向に引かれ、空気の状態変化を直感的に読み取れるようになっています。

まとめ

湿り空気線図は、空気の温度・湿度・熱量などの関係を1枚で把握できる空調設計の基本ツールです。

最も大切なのは「独立な2つの値がわかれば、残りの状態量がすべてわかる」という原則です。まずは「乾球温度(縦線)」と「相対湿度(曲線)」の交点を見つける練習から始めてみてください。

空気線図は読めるようになると、結露の判定、空調負荷の計算、空調機の能力検討など、設備設計のあらゆる場面で応用が利きます。意匠設計の判断にも直結する知識なので、ぜひこの機会に基本を押さえておきましょう。

空気線図上での具体的な状態変化の追い方(混合、冷却、加湿など)は、別記事で詳しく解説しています。

本記事は2026年時点の情報に基づきます。


もっと深く学びたい方へ

有料noteマガジン『空調設備設計の実務テキスト(第1巻)』を準備中です。以下のような実務テーマも扱う予定です。

  • 空気線図を使った冷房・暖房サイクルの設計手順
  • 比エンタルピの計算式の導出と各項の意味
  • 設計条件ごとの状態点読み取り演習(複数パターン)

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