湿り空気線図の読み方入門|状態点・空調プロセス・実務での使い方を詳しく解説
湿り空気線図を開くと、縦線、斜線、曲線が重なり、どこから読めばよいか分からなくなることがあります。設備設計を学び始めた人にとって難しいのは、線の多さだけではありません。「絶対湿度と相対湿度は何が違うのか」「湿球温度はいつ使うのか」「読んだ数値を設計にどうつなげるのか」が一度に現れるためです。
線が似ているため迷いやすいのは無理もありません。すべての線を暗記する必要はありません。空気線図の使い方は、点を置く→その点から必要な値を読む→処理後の点まで線を引くという3段階に整理できます。
この記事では、用語を本文内で確かめながら、実際の状態点の読み取り、夏と冬の空調機、混合空気、熱量、除湿量、結露判定まで順に扱います。読み終えると、設計条件や測定値から状態点を置き、熱量・水分量・結露条件をどの数値で確認するか判断できます。
空気線図が分かりにくいのは、線を一度に見てしまうから
初めて線図を使うときは、線の名前と傾きを全部覚えようとしがちです。しかし、実務で最初に必要なのは「どの2条件が分かっているか」を探すことです。乾球温度と相対湿度、乾球温度と湿球温度など、独立した2条件の交点が空気の状態を示します。

設計条件表や測定記録にある温度と湿度は、線図上に点を置くための入口です。点が決まれば、絶対湿度、露点温度、比エンタルピー、比容積などを同じ点から読めます。線図は数値の一覧表ではなく、空気の状態と変化を一枚でつなぐ道具です。
最初は「点を置く→読む→動かす」の3段階
空気線図では、2本の条件線が交わる場所を状態点と呼びます。状態点は、その空気が持つ温度、水蒸気量、熱量をまとめて表します。

読み方は次の3段階です。
- 点を置く:乾球温度と相対湿度など、既知の2条件の線をたどり、交点を決めます。
- 読む:状態点から各目盛へ進み、絶対湿度、露点温度、比エンタルピーなどを読みます。
- 動かす:加熱、冷却、除湿、加湿、混合の前後を線で結び、変化量を比べます。
この順番を守ると、最初から不要な線を追わずに済みます。
湿り空気線図を読む前に知っておきたい基本用語
湿り空気と乾き空気
空調で扱う湿り空気は、乾き空気と水蒸気が混ざった空気です。一方、乾き空気は水蒸気を除いた空気成分を指します。空気線図の絶対湿度、比エンタルピー、比容積は、乾き空気1kgを基準に表すのが一般的です。単位にあるkg(DA)のDAはdry air、つまり乾き空気です。
乾球温度
乾球温度は、通常の温度計で測る空気温度です。h-x線図では、おおむね縦方向の直線として並びます。室内条件や外気条件に書かれた「26℃」などは、多くの場合この乾球温度です。

湿球温度
湿球温度は、温度計の感温部を湿らせて通風したときの温度です。水が蒸発するときに熱を奪うため、未飽和の空気では乾球温度より低くなります。空気が乾いているほど両者の差が大きくなります。線図では右上がりの斜線として読まれ、比エンタルピー線と近い向きですが同じ線ではありません。

絶対湿度と相対湿度
空調用の線図でいう絶対湿度xは、乾き空気1kgに含まれる水蒸気の質量です。単位はkg/kg(DA)またはg/kg(DA)です。空気から実際に何kgの水を除くか、何kg加湿するかを考えるときに使います。
相対湿度は、その温度で飽和できる水蒸気量に対して、実際の水蒸気量がどの程度あるかを示す割合です。同じ絶対湿度でも、空気を加熱すると相対湿度は下がり、冷却すると上がります。この違いが、冬の暖房で乾燥を感じやすい理由や、冷却時に結露へ近づく理由を説明します。
露点温度
露点温度は、空気を水蒸気量が変わらないまま冷却したとき、相対湿度100%となって結露が始まる温度です。状態点から水平方向に左へ進み、飽和曲線と交わる位置の乾球温度を読みます。窓、ダクト、配管などの表面温度が周囲空気の露点温度を下回ると、表面結露の可能性があります。
比エンタルピーと比容積
比エンタルピーhは、乾き空気1kgを基準とした湿り空気の熱量です。単位はkJ/kg(DA)です。入口と出口の比エンタルピー差に乾き空気の質量流量を掛けると、空気側の全熱量を見積もれます。
日本機械学会が示す関係式は、乾球温度tを℃、絶対湿度xをkg/kg(DA)として、h = 1.006t + x(2501 + 1.805t)です。
比容積は、乾き空気1kg当たりの湿り空気の体積です。単位はm³/kg(DA)です。風量m³/sから乾き空気の質量流量kg(DA)/sへ換算するときに使います。
7つの要素を一度に整理する
用語の背景をさらに確認したい場合は、空調の専門用語を図で解説も参照できます。ただし、本記事の読み取りに必要な意味はここまでで足ります。
実際に状態点を置いて値を読む
標準大気圧101.325kPaの線図で、乾球温度25℃、湿球温度14.4℃の空気を例にします。NISTの計算例では、この状態は相対湿度約31%、絶対湿度約0.0064kg/kg(DA)です。
読み取り順は、乾球温度25℃→湿球温度14.4℃→交点を状態点にする→状態点から各目盛を読むです。
- 下側の乾球温度目盛で25℃を探し、縦方向へ進みます。
- 湿球温度14.4℃の斜線を探し、乾球温度線との交点を取ります。
- 交点を状態点Aとします。
- 状態点Aから相対湿度曲線を読み、約31%と確認します。
- 状態点Aから水平に右へ進み、絶対湿度約6.4g/kg(DA)を読みます。
- 同じ絶対湿度のまま左へ進み、飽和曲線との交点から露点温度約7.2℃を読みます。
線の太さや印刷解像度により、読み取り値には小さな差が出ます。計算書へ転記する値は有効桁を増やし過ぎず、必要に応じて計算ソフトで照合します。また、湿球温度と露点温度は別の値です。飽和状態では一致しますが、未飽和の空気では一致しません。
どの2条件が与えられても読み始める場所は同じ
状態点を決めるには、独立した2つの条件が必要です。よく使う組み合わせを整理すると、次のようになります。
「温度が2つある」だけでは十分とは限りません。同じ種類の条件や、互いに独立しない条件では状態点を一つに決められないため、線図の凡例と測定項目を確かめます。
空気の状態変化を線図で追う
状態点を置けるようになったら、処理前と処理後を結びます。動く方向を丸暗記せず、「温度は変わるか」「水蒸気量は変わるか」を確認すると、右・左・上・下の動きを決められます。
冷却コイルの実際の出口状態は、コイル表面温度、バイパスファクター、風量などにより変わります。線図上で出口点を飽和曲線上に固定せず、機器選定資料と設計条件を照合します。
夏の空調機を空気線図で追う
夏の空調機では、外気と室内から戻る還気を混ぜ、冷却コイルで冷却・除湿し、給気として室内へ送ります。線図には外気O、還気R、混合空気M、コイル出口Cの4点を置きます。

ここでは、理解用に値を丸めた簡略例を使います。外気量比は乾き空気質量基準で30%、乾き空気の質量流量は1.0kg(DA)/sとします。
混合空気の絶対湿度は、18.0×0.30 + 10.5×0.70 = 12.75g/kg(DA)です。比エンタルピーも同じ質量比で、81.0×0.30 + 52.9×0.70 ≒ 61.3kJ/kg(DA)となります。線図ではO点とR点を直線で結び、外気側30%、還気側70%となる位置にM点を置きます。
コイルの全熱量は、入口Mと出口Cの比エンタルピー差から、1.0×(61.3-36.8) ≒ 24.5kWです。除湿量は絶対湿度差から、1.0×(0.01275-0.0090)×3600 = 13.5kg/hです。
この例で線図が担うのは、点を描くだけではありません。外気導入によってコイル入口条件がどこまで厳しくなるか、コイルで何kW処理するか、ドレンが毎時何kg発生するかを同じ状態変化から確認できます。実際の機器選定では、ファン発熱、ダクト熱取得、コイルのバイパス、メーカーの能力表、安全率なども別途確認します。
冬の空調機を空気線図で追う
冬は、低温で絶対湿度の小さい外気を還気と混合し、加熱と加湿を行います。暖房だけを行うと絶対湿度は変わらず、乾球温度の上昇に伴って相対湿度が下がります。そのため、室内湿度条件がある場合は加湿量の検討が必要です。

蒸気加湿では水蒸気と熱が空気へ加わるため、線図上では乾球温度の変化が小さいまま絶対湿度と比エンタルピーが増える方向へ進みます。水噴霧による気化式加湿では、水の蒸発に空気の顕熱が使われるため、おおむね等湿球温度方向へ進み、乾球温度が下がります。採用方式ごとに軌跡が異なるので、加湿器仕様と出口条件を照合します。
空気線図を実務で使う4つの場面
1.空調負荷とコイル能力を確認する
空調機の入口点と出口点を置き、比エンタルピー差を読みます。乾き空気の質量流量を掛けると全熱量を見積もれます。絶対湿度差を使えば、冷却コイルの除湿量や加湿器の必要加湿量も確認できます。設備設計では、線図の読値だけで機器を決めず、計算書とメーカー能力表の条件をそろえて比較します。
2.外気と還気の混合状態を求める
外気点と還気点を直線で結ぶと、混合空気点はその線上にあります。位置は乾き空気の質量比で決まります。外気量を増やすと、夏は高温多湿側、冬は低温低湿側へ混合点が寄るため、コイル負荷と加湿量への影響を視覚的に把握できます。
3.結露の可能性を確認する
室内空気の状態点から露点温度を読み、窓、外壁、ダクト、配管、吹出口などの予想表面温度と比べます。

表面温度が露点温度を下回る場合は結露の可能性があります。ただし、最終判断では断熱欠損、熱橋、室内外条件、気流、測定位置と測定誤差も確認します。詳しい仕組みは結露の発生メカニズムと防止対策で補足できます。
4.現場測定値と設計値を比べる
室内、外気、空調機入口・出口で乾球温度と相対湿度を測り、それぞれを線図へ置きます。設計した処理方向と実測の動きが異なる場合、風量不足、外気量のずれ、コイル能力、加湿制御、センサー位置などを確認します。測定器の精度、安定時間、測定位置を記録し、複数時点の値と設計条件を比べます。
実務で迷わないための確認チェックリスト
設備設計者や現場の担当者が、基本計画、実施設計、改修時の各場面で使う確認項目です。線図の対象条件、空調設備の各状態点、計算と機器仕様の照合漏れを見直す目的で使用します。
☐ 使用する線図の大気圧、単位、乾き空気基準を確認した
☐ 状態点を決める独立した2条件を確認した
☐ 外気、還気、混合、コイル出口、給気の各点を分けた
☐ 熱量は比エンタルピー差、除湿・加湿量は絶対湿度差で確認した
☐ 風量を使う計算では比容積から乾き空気質量流量へ換算した
☐ 結露確認では露点温度と対象表面温度を比較した
☐ コイル、加湿器、熱交換器の出口条件をメーカー資料と照合した
練習問題で読み方を定着させる
練習1:状態点から露点温度を読む
標準大気圧の線図で、乾球温度25℃、湿球温度14.4℃の状態点を置きます。相対湿度、絶対湿度、露点温度を読んでください。
答えの目安は、相対湿度約31%、絶対湿度約6.4g/kg(DA)、露点温度約7.2℃です。最初に2条件の交点を決め、相対湿度曲線→右側の絶対湿度目盛→左側の飽和曲線の順に読みます。
練習2:混合後の絶対湿度を求める
絶対湿度18.0g/kg(DA)の外気を30%、10.5g/kg(DA)の還気を70%混ぜます。混合後の絶対湿度を求めてください。
答えは、18.0×0.30 + 10.5×0.70 = 12.75g/kg(DA)です。線図では外気点と還気点を結ぶ直線上に混合点があることも確認します。
間違えやすいポイント
暖房後の室内湿度を評価する場面
既存建物の暖房運転前後を調査するとき、温湿度計の相対湿度だけを比べる場面があります。暖房による乾球温度の上昇と、水分除去を分けて考える必要があります。
よくある間違い:相対湿度が下がった数値だけを見て、設備が空気中の水分を除去したと判断し、必要加湿量や室内の水分収支を誤ります。
確認すべきこと:運転前後の測定温度と相対湿度を線図へ置き、絶対湿度の数値を比較します。加湿器の運転記録と外気量の設計資料も照合します。
結露調査で温度の種類を取り違える場面
現場の結露調査で、乾湿球計から得た湿球温度を窓やダクトの表面温度と直接比較する場面があります。未飽和空気では湿球温度と露点温度は異なります。
よくある間違い:現場で湿球温度を結露開始温度と判断し、表面結露の有無や必要な断熱仕様を誤って評価します。
確認すべきこと:測定した乾球温度と相対湿度または湿球温度から状態点を置き、飽和曲線との交点で露点温度の数値を確認します。表面温度の測定記録と照合します。
冷却コイルの出口条件を選定する場面
実施設計で冷却コイルの入口点と必要給気点を線図に置き、コイル能力を選定する場面です。実際の出口は装置露点、バイパスファクター、風量で変わります。
よくある間違い:入口点から飽和曲線までを理想的な冷却除湿とみなし、出口を相対湿度100%に固定してコイル能力やドレン量を過小または過大に計算します。
確認すべきこと:設計計算書の入口条件・風量と、メーカー選定資料の出口乾球温度・絶対湿度・装置露点・バイパスファクターを照合します。
高地の建物で空調条件を計算する場面
標高の高い地域にある建物で、外気条件や空調機の風量を計算する場面です。大気圧が変わると、同じ温湿度でも絶対湿度や比容積の関係が変わります。
よくある間違い:標準大気圧101.325kPaの線図をそのまま使い、乾き空気質量流量、熱量、加湿・除湿量の計算値を誤ります。
確認すべきこと:計画地の標高と設計用大気圧を気象資料・設計条件書で確認し、対象圧力の線図または圧力設定ができる計算ソフトと照合します。
風量からコイル熱量を計算する場面
空調機選定で、設計風量m³/sとコイル前後の比エンタルピー差から全熱量を計算する場面です。比エンタルピーは乾き空気1kg基準です。
よくある間違い:体積流量へ比エンタルピー差を直接掛け、単位の合わない値をコイル能力と判断してメーカーへ提示します。
確認すべきこと:入口状態点の比容積を線図または計算書で確認し、体積流量を乾き空気質量流量kg(DA)/sへ換算します。その後、メーカー選定資料の能力値と照合します。
まとめ
湿り空気線図は、すべての線を覚えてから使うものではありません。既知の2条件で点を置く→同じ点から必要な値を読む→処理前後の点を結ぶという順番を繰り返すと、線の役割が見えてきます。
まずは乾球温度と相対湿度で室内点を置き、絶対湿度と露点温度を読む練習から始めます。次に、外気と還気の混合、夏の冷却除湿、冬の加熱加湿を追うと、線図が空調負荷、機器選定、結露確認へつながることを理解できます。最終的な設計値は、対象地域の大気圧、計算条件、機器仕様と照合してください。
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参考・出典
- ・日本冷凍空調学会「空気線図プログラム 操作説明書」
- ・日本機械学会「湿り空気」
- ・日本機械学会「絶対湿度」
- ・NIST Building Science Series 157
- ・日本機械学会 TED Plaza「空調システムと熱力学」


