設備図面の記号と凡例をわかりやすく解説|ダクト・配管・ダンパの表記ルール
設備図面を初めて開いたとき、「SA」「RA」「VD」「FD」といったアルファベットの羅列に戸惑った経験はないでしょうか。意匠図面とは異なる独特の記号体系に、最初は誰もが面食らうものです。
しかし、設備図面の記号は一定のルールに従って体系化されています。英語の頭文字を基本としたシンプルな命名法が多く、ルールさえ押さえれば図面から設備システム全体の構成を読み解けるようになります。
この記事では、空調設備の設計・施工に関わる方が知っておくべき設備図面の種類、主要な図面記号の一覧、そして図面の読み方のポイントをわかりやすく解説します。
設備図面の記号を定める基準
設備図面に使われる記号は、主に以下の2つの基準に準拠しています。
公共建築設備工事標準図(機械設備工事編)は、国土交通省が制定する統一基準で、3年ごとに改定されています。最新版は令和7年版(2025年3月改定)です。公共建築工事だけでなく、民間工事の図面でも広くこの記号体系が参照されています。
SHASE-S001は、空気調和・衛生工学会が定めた設備図面記号の規格です。現行版はSHASE-S001-2005で、設備CADソフトの多くがこの規格に準拠したシンボルを搭載しています。
実務では、これらの基準をベースに凡例(図面に添付される記号の説明一覧)で補足するのが一般的です。図面を読む際は、まず凡例を確認する習慣をつけましょう。
設備図面の種類と役割

設備設計では、工事のフェーズや目的に応じて複数の図面が作成されます。代表的なものを押さえておきましょう。
設計図
全体配置、配管・ダクト系統、機器配置、詳細図、特記仕様書などで構成される、すべての図面の「おおもと」です。予算積算や見積りの基礎となり、以降の図面はこの設計図をもとに作成されます。
施工図
設計図をもとに、現場での具体的な納まりや寸法を示した図面です。天井内のダクトや配管のルーティング、支持金物の位置など、施工に必要な詳細情報が記載されます。
竣工図(完成図)
建物完成時の最終的な機器配置や配管系統を記録した図面です。施工中に設計変更があった場合はすべて反映されており、竣工後のメンテナンスや将来の改修工事で欠かせない資料となります。
総合図(プロット図)
空調・電気・給排水衛生など複数の設備を1枚の図面に重ね合わせ、設備どうしの干渉(取り合い)を確認・調整するための図面です。天井内のスペースは限られているため、この総合図での調整が施工品質を大きく左右します。
意匠設計者にとっては、総合図が最も馴染みのある設備図面かもしれません。天井高さや設備スペースに関わる意匠判断は、この図面での調整結果に直結します。
設備図面の読み方のポイント

線種と太さの使い分け
設備図面では、線の描き方で情報を区別します。
ダクトの線種について、角ダクトを描く際は内線(ダクト本体の線)を外線(フランジの線)よりも太く濃く描きます。また、排煙ダクトは2本の太い線で描き、通常の空調ダクトと区別します。
配管の単線と複線は、縮尺と管径によって使い分けます。たとえば縮尺1/100の図面では、150A以下の配管は1本の線(単線)で、200A以上は実際の太さを持たせた2本の線(複線)で描かれます。
破線は、床下の配管や水抜き管など、隠れた部分の表示に使われます。
寸法の読み方
ダクト寸法は、角ダクトが「W(幅)× H(高さ)」、丸ダクトが「φ(直径)」で表記されます。
高さの表記はFL(Floor Level:床面レベル)を基準として「FL+○○」の形式で記入します。ここで注意が必要なのは、角ダクトの場合はダクト下端の高さ、丸ダクトの場合はダクト芯(中心)の高さを表している点です。この違いを知らないと、天井内の納まり検討で寸法を読み間違える原因になります。
機器の記号一覧
空調機や送風機などの機器名称は、英語名称のアルファベット略号で表記されます。
| 機器名 | 記号 | 英語名称 |
|---|---|---|
| 空気調和機 | AC | Air Conditioning Unit |
| パッケージ形空調機 | PAC | Package Air Conditioner |
| ファンコイルユニット | FCU | Fan Coil Unit |
| 送風機(給気) | SF | Supply Fan |
| 還風機 | RF | Return Fan |
| 排風機 | EF | Exhaust Fan |
| 排煙機 | SEF | Smoke Exhaust Fan |
| 換気扇・天井扇 | VF | Ventilation Fan |
「S = Supply(給気)」「R = Return(還気)」「E = Exhaust(排気)」という基本パターンを覚えると、記号を丸暗記しなくてもある程度推測できるようになります。
ダクト関連の記号一覧
ダクトの種別記号
ダクトは「何のために空気を運ぶか」によって以下のように分類されます。
| 種類 | 記号 | 英語名称 | 役割 |
|---|---|---|---|
| 給気ダクト | SA | Supply Air | 空調機から室内へ調整済みの空気を送る |
| 還気ダクト | RA | Return Air | 室内から空調機へ空気を戻す |
| 外気ダクト | OA | Outside Air / Outdoor Air | 屋外の新鮮な空気を空調機に取り込む |
| 排気ダクト | EA | Exhaust Air | 汚れた空気を屋外に排出する |
| 排煙ダクト | SE | Smoke Exhaust | 火災時に煙を屋外に排出する |
この5つは設備図面で最も頻繁に登場する記号です。「SA・RAは空調の循環」「OA・EAは換気の入れ替え」「SEは防災」と、3つのグループで整理すると覚えやすくなります。
ダンパの記号
ダンパはダクト内の風量調節や防火のために設けられる装置です。各種ダンパの役割と記号の詳細は別記事で解説していますが、ここでは図面で頻出するものを一覧にまとめます。
| 種類 | 記号 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 風量調節ダンパ | VD | 手動で風量を調整する |
| モーターダンパ | MD | 電動モーターで風量を遠隔制御する |
| 防火ダンパ | FD | 火災時にヒューズ溶断(72℃)で閉鎖する |
| 排煙用防火ダンパ | HFD | 排煙ダクトの防火区画貫通部に設置(280℃で閉鎖) |
| 防煙ダンパ | SD | 煙感知器連動で閉鎖する |
| 防煙防火ダンパ | SFD | 煙感知器連動+温度ヒューズで閉鎖する |
| チャッキダンパ(逆流防止) | CD | 空気の逆流を防止する |
| ピストンダンパ | PD | ガス消火設備のガス圧で閉鎖する |
FDのヒューズ溶断温度は一般に72℃ですが、厨房などの排気温度が高いダクトでは120℃のものを使用します。HFD(排煙用防火ダンパ)は排煙ダクトが通過中に不用意に閉鎖しないよう、280℃という高い溶断温度が設定されています。
吹出口・吸込口の記号
吹出口・吸込口は図形記号で種類を区別します。
| 種類 | 図形の特徴 |
|---|---|
| アネモ形(シーリングディフューザー) | 丸の中に十字を描いた記号 |
| ユニバーサル形 | 四角の中に「V」「VH」などの文字 |
| 線状吹出口(ラインディフューザー) | 「BL-S」「BL-D」などの記号+長さ表記 |
| ノズル形 | 「NZ」の記号+呼び径 |
配管関連の記号一覧
配管の種別記号
配管の線の途中に記号を挟み込んで、管の中を流れる流体の種類を示します。
| 種類 | 送り管(往管) | 返り管(還管) |
|---|---|---|
| 冷水管 | C | CR |
| 温水管 | H | HR |
| 冷温水管 | CH | CHR |
| 冷却水管 | CD | CDR |
| 冷媒管 | R | 液管:RL、ガス管:RG |
| ドレン管 | D | — |
| 油送り管 | O | OR |
ここでも英語の頭文字がルールです。C = Chilled(冷水)、H = Hot(温水)、CD = Condenser(冷却水)、R = Refrigerant(冷媒)、D = Drain(ドレン)と覚えましょう。「R」が付いた記号は「Return(返り)」を意味します。
バルブの記号
バルブ(弁)は基本的にリボン型(蝶ネクタイ型)の図形で表され、中心部のマークで種類を区別します。バルブの詳細な種類と使い分けは別記事で解説していますが、図面で最もよく見かけるものを紹介します。
| 種類 | 記号 | 図形の特徴 |
|---|---|---|
| ゲート弁(仕切弁) | GV | リボン型(中心マークなし) |
| グローブ弁(玉形弁) | SV | リボン型の中央に黒丸 |
| バタフライ弁 | BV | リボン型の中央に斜線 |
| チャッキ弁(逆止弁) | — | 「N」の字に似た形 |
| Y形ストレーナ | — | 「Y」の字に似た形 |
チャッキ弁は流体の逆流を防ぐ弁なので、図面上では流れの方向を必ず確認しましょう。
図面記号を覚えるための3つのコツ
設備図面の記号は数が多く感じますが、以下のコツを押さえれば効率的に習得できます。
英語の頭文字を意識する。Supply、Return、Exhaust、Volume、Fire、Smokeなど、ほとんどの記号は英語名称の頭文字です。丸暗記ではなく、英語の意味とセットで覚えると応用が利きます。
「対」になる記号をセットで覚える。SAとRA、OAとEA、CとCRなど、送りと返りの対をセットで覚えると効率的です。
凡例を最初に読む。すべての記号を暗記する必要はありません。図面には必ず凡例が添付されていますので、まず凡例を確認する習慣をつけましょう。
建築設備士試験での出題ポイント
設備図面の記号は建築設備士試験でも出題されるテーマです。とくに以下の点は押さえておきましょう。
- ダクト種別記号(SA・RA・OA・EA・SE)の意味と役割の違い
- 防火ダンパ(FD)と排煙用防火ダンパ(HFD)のヒューズ溶断温度の違い(72℃と280℃)
- SFDが「煙感知器連動+温度ヒューズ」の二重機能を持つこと
- 配管記号の「R」がReturn(返り管)を意味すること
- 角ダクト寸法の表記(W×H)と丸ダクト寸法の表記(φ)の違い
よくある質問(FAQ)
Q. 設備図面の記号はどの基準に従えばよいですか?
国土交通省の「公共建築設備工事標準図(機械設備工事編)」が最も広く参照される基準です。最新版は令和7年版(2025年改定)です。民間工事でもこの記号体系をベースにしている設計事務所が多いため、まずはこの基準を学ぶのが実務的です。
Q. FDとHFDの違いは何ですか?
FD(防火ダンパ)は空調・換気ダクトの防火区画貫通部に設置され、温度ヒューズの溶断温度は通常72℃(厨房等は120℃)です。HFD(排煙用防火ダンパ)は排煙ダクト専用で、排煙時に不用意に閉鎖しないよう溶断温度は280℃に設定されています。
Q. ダクト高さの「FL+○○」は何を基準にしていますか?
FL(Floor Level)は各階の床面仕上げレベルを基準としています。角ダクトはダクト下端の高さ、丸ダクトはダクト芯(中心)の高さを表記するのが一般的です。天井内の納まり検討時には、この違いを考慮してクリアランスを確認する必要があります。
Q. 設備図面を読むために最低限覚えるべき記号はどれですか?
ダクト種別(SA・RA・OA・EA)、主要なダンパ(VD・FD・SFD)、配管の流体表記(C・H・CH・CD)の3グループを優先的に覚えましょう。これだけで図面の大まかな構成が読み取れるようになります。
本記事は2025年時点の情報(公共建築設備工事標準図 令和7年版)に基づいています。
もっと実務的に学びたい方へ
有料noteマガジン『空調方式の選定と設計プロセス 完全版』では、以下のような実務テーマも扱っています。
- 設計フェーズ別のアウトプット一覧と図面作成のタイミング
- 機械室・DS・PSの必要面積の目安表
- 空調方式比較マトリクスと選定フローチャート
