設計外気条件とは?外の気象条件が空調負荷に与える影響をわかりやすく解説
意匠設計が業務の中心だった頃、空調機器の「能力」がどうやって決まるのか、正直よくわかっていませんでした。設備の打ち合わせで「外気条件をどう設定するかで機器のサイズが変わります」と言われて、初めて外の気象条件と空調設計が密接につながっていることを知ったのです。
この記事では、外気温度・湿度・日射・風といった気象要素が空調負荷にどのように影響するのか、そして空調設計のベースとなる「設計外気条件」と「TAC温度」の考え方について解説します。空調負荷計算の前提知識として、設備設計の全体像を掴むための地図になるはずです。
外気温度と空調負荷の関係|顕熱負荷の基本

空調負荷の中でも最も基本的なのが、室内外の「温度差」によって生じる熱の移動です。
熱は温度が高い方から低い方へ移動する性質を持っています。この原則は壁・屋根・窓などの建築外皮を通じた熱移動にそのまま当てはまります。
夏(冷房時):外気温が室温より高いため、外の熱が壁や窓を通じて室内へ侵入します。この侵入する熱を取り除くのが「冷房負荷」です。外気温と室温の差が大きいほど、壁・窓を通じた熱侵入量は大きくなります。
冬(暖房時):室温の方が外気温より高いため、室内の熱が外へ逃げていきます。逃げた分の熱を補うのが「暖房負荷」です。外気温が低い地域ほど暖房負荷は大きくなります。
この温度差による熱移動は「顕熱負荷」と呼ばれ、壁・屋根・窓を通じた熱貫流負荷として空調負荷計算の基礎になります。
外気湿度と空調負荷の関係|潜熱負荷と外気負荷

空調では、換気のために一定量の外気を室内に取り入れる必要があります。この外気の導入に伴って生じるのが「外気負荷」です。
夏の場合:高温多湿な外気には多くの水蒸気が含まれています。この外気を室内に取り込むと、温度だけでなく湿度も上昇するため、空調機で水蒸気を取り除く「除湿」が必要になります。水蒸気を凝縮させるのに必要なエネルギーを「潜熱負荷」と呼びます。日本の夏は高湿度であるため、潜熱負荷が冷房負荷全体に占める割合は大きく、無視できません。
冬の場合:冬の外気は低温で乾燥しています。そのまま室内に導入すると室内が過度に乾燥してしまうため、加湿器による加湿が必要になります。
ここで重要なポイントは、温度差による顕熱負荷と、水蒸気量の差による潜熱負荷は別々に計算する必要があるということです。空調機の能力選定では、顕熱と潜熱の両方を処理できる機器を選ばなければなりません。顕熱と潜熱の違いについては別記事で詳しく解説しています。
日射が冷房負荷に与える影響|方位による違いがポイント

夏の冷房負荷において非常に大きな割合を占めるのが、窓ガラスを通じて室内に侵入する「日射熱」です。日射による熱取得量は、建物の壁面の方位によって大きく異なります。
夏に最も日射を受けるのは南面ではなく東西面
多くの方は「南向きの壁が一番日射を受ける」と考えがちですが、夏至の時期に最も多くの日射を受ける鉛直面は東面と西面です。
これは太陽の動きに起因します。夏は太陽高度が高く、南中時の太陽は建物のほぼ真上に位置します。そのため、南面の鉛直壁に対する日射の入射角度は大きくなり(壁に対して上からの光になる)、結果として南面が受ける日射量は小さくなります。一方、東面は朝方、西面は夕方に太陽高度が低い状態で長時間にわたり日射を受けるため、終日の合計日射量は東西面のほうが南面より大きくなるのです。
各季節における鉛直面の終日日射量の大小関係は以下のとおりです。
- 夏至:水平面 > 東西面 > 南面 > 北面
- 冬至:南面 > 水平面 > 東西面(北面はゼロ)
- 春秋分:水平面 > 南面 > 東西面(北面はゼロ)
この関係から、夏の冷房負荷を抑えるには東西に長い建物形状(=東西面の壁面積を小さくする)が有利であることがわかります。意匠設計の段階で建物の向きや形状を検討する際に、この日射の方位特性を知っておくことは空調コストに直結する重要な視点です。
ガラス窓からの日射負荷の計算方法については別記事で詳しく解説します。
外気負荷の基本計算例|温度差と湿度差で負荷を求める

ここまで解説した気象要素のうち、外気温度・湿度が空調負荷に与える影響を、簡単な計算例で確認してみましょう。
換気のために外気を導入するとき、外気と室内空気の温度差・湿度差によって「外気負荷」が発生します。外気の顕熱負荷(温度差による負荷)は次の式で求められます。
qs = 1,200 × V ×(to – ti)
- qs:外気の顕熱負荷〔W〕
- 1,200:空気の定圧比熱×密度の概算値〔J/(m³・K)〕
- V:外気導入量〔m³/s〕
- to:外気の乾球温度〔℃〕、ti:室内温度〔℃〕
計算例:東京のオフィスビル(夏期)
外気温度35℃、室内温度26℃、外気導入量2,000 m³/h(≒ 0.556 m³/s)の場合:
qs = 1,200 × 0.556 ×(35 – 26)= 1,200 × 0.556 × 9 ≒ 6,000 W(6.0 kW)
外気を導入するだけで約6 kWの顕熱負荷が発生します。さらに、日本の夏は高湿度であるため、水蒸気量の差から生じる潜熱負荷は顕熱負荷の2倍以上になることも珍しくありません。外気負荷全体では約20 kW近くに達する場合もあります。
複数都市・複数パターンの詳しい計算演習は有料noteで解説する予定です。
風が空調負荷に与える影響|すきま風負荷

建物の外壁に風が当たると、風上側の壁面には正圧(+の圧力)、風下側や側面には負圧(-の圧力)が作用します。この内外の圧力差によって、窓やドアの隙間から意図しない外気が室内に侵入してくる現象が「すきま風」です。
すきま風は換気計画とは別に発生する非制御の外気侵入であり、夏は高温多湿の外気が、冬は冷たい外気が室内に入り込むため、空調負荷(すきま風負荷)が発生します。
すきま風の量は以下の条件で大きくなります。
- 風速が大きい地域(海岸沿い、高層部など)
- 建物の気密性能が低い場合
- 出入口の開閉頻度が高い場合
特に冬の季節風が強い日本海側や、高層建築の上層階では、すきま風負荷を適切に見込まないと暖房能力が不足する原因になります。すきま風負荷の計算方法については別記事で詳しく解説しています。
設計外気条件とTAC温度の考え方

空調設備の機器容量を決定するためには、「夏はどこまで暑くなるのか」「冬はどこまで寒くなるのか」という設計上の基準となる外気条件(設計外気条件)を設定する必要があります。
過去最高気温を基準にしない理由
直感的には「過去最高気温に対応できる機器を選べばよい」と思うかもしれませんが、この考え方には大きな問題があります。過去最高気温のような極端な気象条件は、年間を通じてごくわずかな時間しか発生しません。その稀な条件に合わせて機器を選定すると、設備が過大になり、初期コストもランニングコストも不経済になります。
TAC温度(超過危険率による設計条件)
そこで空調設計では、TAC温度と呼ばれる統計的な手法が用いられます。TACとはASHRAE(米国暖房冷凍空調学会)の技術諮問委員会(Technical Advisory Committee)が提案した方法に由来します。
TAC温度の考え方は次のとおりです。
冷房期4ヶ月間(6月~9月)の毎時気象データを集計し、温湿度が厳しい側から並べたとき、上位2.5%の極端な条件を除外した値を設計外気条件とします。つまり「冷房期間中の2.5%の時間は、設計条件を超える気象が発生しうる」ことを許容する考え方です。
この「2.5%を許容する」という割合を超過危険率(または超過確率)と呼びます。国土交通省の「建築設備設計基準」では、超過危険率2.5%の設計屋外温湿度が全国各地域について定められています。
建築設備設計基準は令和6年版が最新であり、2010年から2019年の気象データに基づいて設計用外気温湿度が算出されています。近年の温暖化傾向を反映して、過去の版よりも設計温度が上昇している地域があります。
設計外気条件の設定時刻
建築設備設計基準では、夏期の設計屋外温湿度が9時・12時・14時・16時の時刻別に示されています。通常、冷房負荷が最大となる14時の値が設計条件として使用されます。冬期は午前9時の値が掲載されています。
主要都市の設計屋外温湿度(TAC 2.5%相当の目安)

地域によって設計外気条件は大きく異なります。以下に主要都市の代表的な設計屋外温湿度の目安を示します。
| 都市名 | 夏期 乾球温度(℃) | 夏期 湿球温度(℃) | 冬期 乾球温度(℃) |
|---|---|---|---|
| 札幌 | 約30 | 約24 | 約-10 |
| 仙台 | 約31 | 約25 | 約-4 |
| 東京 | 約35 | 約27 | 約0 |
| 大阪 | 約35 | 約27 | 約1 |
| 福岡 | 約34 | 約27 | 約2 |
| 那覇 | 約33 | 約28 | 約10 |
※上記は建築設備設計基準の設計屋外温湿度をもとにした概数値です。実務では必ず最新版の建築設備設計基準の正確な数値を使用してください。
この表から、以下のことがわかります。
- 夏期:那覇の乾球温度は東京や大阪より低い。ただし湿球温度(潜熱負荷に直結)は最も高く、除湿負荷が大きい
- 冬期:札幌は-10℃近くまで下がるため、暖房負荷が非常に大きい
- 温湿度の地域差:同じ空調システムでも、地域によって必要な機器容量は大きく変わる
地域ごとの気候特性と空調設計への影響
日本は南北に長い地形を持ち、地域によって気候特性が大きく異なります。空調設計では、単に設計温度の数値だけでなく、その地域に特有の気象パターンを理解することが重要です。
- 北海道:夏は涼しく冷房負荷は比較的小さい。一方、冬の暖房負荷が非常に大きく、凍結防止対策が設備計画の重要な要素となる
- 日本海側:冬に季節風の影響で降雪量が多く、すきま風負荷が大きくなる傾向がある
- 太平洋側:夏に高温多湿になるため、冷房負荷(特に潜熱負荷)が大きい。冬は比較的乾燥しているため、加湿が課題になる
- 沖縄:年間を通じて高温多湿であり、冷房期間が長い。塩害対策も設備計画に影響する
建築設備士試験で問われるポイント
設計外気条件と空調負荷に関連する試験のポイントを整理します。
- TAC温度は超過危険率に基づく統計的な設計条件であり、過去最高気温とは異なる
- 夏至の終日日射量の大小関係は「水平面 > 東西面 > 南面 > 北面」
- 冬至の終日日射量の大小関係は「南面 > 水平面 > 東西面」
- すきま風は、建物外壁に作用する風圧(正圧・負圧)の差によって発生する
よくある質問(FAQ)
Q. 設計外気条件の「TAC 2.5%」とは何ですか?
冷房期4ヶ月間(6月~9月)の毎時気象データを統計処理し、温湿度が厳しい側の上位2.5%を除外した値です。つまり、冷房期間の97.5%の時間は設計条件内に収まるという意味です。建築設備設計基準ではこの手法で全国各地の設計屋外温湿度が定められています。
Q. なぜ設計外気温度は40℃を超えていないのですか?
日本各地で40℃を超える気温が報じられることはありますが、設計外気条件は超過危険率2.5%の統計処理によって算出されているため、極端な猛暑日の最高気温は除外されています。これは、稀にしか発生しない極端な条件に合わせて過大な設備を導入するのは不経済であるという考え方に基づきます。
Q. 夏に一番日射を受けるのは南面ではないのですか?
夏至の時期に鉛直壁面が受ける終日日射量は、東西面のほうが南面より大きくなります。夏は太陽高度が高く、南面に対する入射角度が大きくなるためです。一方、冬至では太陽高度が低くなるため、南面が最も多くの日射を受けます。
Q. すきま風はどの程度空調負荷に影響しますか?
すきま風の影響は建物の気密性能と風環境によって大きく異なります。気密性が低い建物や風の強い地域では、冬期のすきま風負荷が暖房負荷の大きな割合を占めることがあります。特にエントランスホールや出入口の多い建物では、すきま風対策(風除室の設置など)が空調負荷の低減に直結します。
まとめ
外の気象条件は空調負荷に直結する最も基本的な要素です。
- 外気温度の高低が壁・窓を通じた顕熱負荷を生む
- 外気湿度の高低が換気外気の潜熱負荷を生む
- 日射は方位によって受熱量が大きく異なり、夏は東西面が最大
- 風はすきま風として非制御の外気侵入を引き起こす
- 設計外気条件(TAC温度)は統計的手法により経済的な機器選定の基準を提供する
これらの気象要素を正確に読み解くことが、過不足のない空調システムを構築するための第一歩です。空調負荷の分類や、各負荷要素の具体的な計算方法は、それぞれ別記事で詳しく解説しています。
※本記事は建築設備設計基準 令和6年版の情報に基づいています。
より実務的な設計数値を学びたい方へ
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- 設計外気条件の設定と地域補正の実務
- 構造種別ごとの空調負荷計算の詳細手順
- 空調方式の選定判断フローとチェックリスト
