電気設備設計の業務フロー|基本計画から実施設計・施工まで
電気設備設計を任されたものの、「どの資料から見ればいいのだろう」「基本計画と実施設計は何が違うのだろう」と迷っていませんか。建築図、設備負荷表、電力会社の資料が一度に出てくるので、最初から順番が分からなくても無理はありません。
まず知っておきたいのは、電気設備設計は図面を描くだけの仕事ではない、ということです。建築主が何を求めているのかを聞き、敷地へ電気を引ける場所を調べ、必要な容量や電気室の広さを決めていきます。初めから細かな機器や配線まで決める必要はありません。
この記事では、企画・調査から基本計画、実施設計、施工・引渡しまでを、実際に作業する順番で見ていきます。読み終えるころには、今いる工程でどの資料を開き、誰に何を聞き、次に何を決めればよいかが分かるようになります。
電気設備設計は、まず5つの段階に分けてみましょう
資料を前にして迷ったら、まず設計業務を5つに分けてみましょう。実際の設計では、建築計画や予算が変わり、前の段階へ戻ることもあります。それでも、最初にこの順番を頭に入れておくと、「今は何を決める段階なのか」を見失いにくくなります。
企画・要求確認 → 現地・インフラ調査 → 基本計画・基本設計 → 実施設計 → 施工・検査・引渡し

1.企画・要求確認
最初に知りたいのは、どのような建物を、いつまでに、いくらでつくるのかです。建物用途、延べ面積、利用時間、予算、竣工時期を建築主へ聞きます。停電したときにも動かしたい設備や、将来増やす予定の機器がないかも、この段階で聞いておきましょう。
ここでは、まだ機器の型番まで決めなくて大丈夫です。「誰が、何を希望したのか」を記録しておけば、後で希望が変わったときに、電源容量や電気室の広さを見直す理由が分かります。
2.現地・インフラ調査
次は敷地を見ます。電気や通信をどこから引き込めるのか、既存設備を残すのか、新しく工事する範囲はどこまでかを調べます。国土交通省の業務報酬基準でも、電力・通信などの供給状況を調べ、必要に応じて関係機関と打合せを行うことが基本設計の標準業務に含まれています。
「引込柱が見えるから、ここから受電できるだろう」と決めるのはまだ早いです。協議する内容や申込時期は、供給区域、受電方式、受電したい日、工事内容で変わります。一般送配電事業者へ確認し、回答と確認日を残しておくと、後の工程でも同じ条件を使えます。
3.基本計画・基本設計
ここまでに集めた希望と調査結果を使って、設備の大きな方針を決めるのが基本計画です。受電方式、おおよその電気容量、停電時にも動かす設備、電気室やEPSの位置、太い幹線を通す経路を考えます。EPSは、電線や通信ケーブルを上下階へ通すための縦方向のスペースです。
基本設計では、その方針を建築主と一緒に確認できる資料へまとめます。たとえば、電気設備計画説明書、設計概要書、工事費概算書などです。国土交通省告示にも標準的な成果図書が示されていますが、すべての案件で同じ資料を作るわけではありません。契約書や特記仕様書に書かれた提出物を先に確認しましょう。
4.実施設計
基本計画で決めた方針を、実際に見積りと工事ができるところまで詳しくするのが実施設計です。ここで初めて、機器の仕様、配線の種類、器具の位置、盤や回路の名称まで決めていきます。仕様書、受変電設備図、幹線系統図、各階平面図、計算書などから、案件に必要な図書を作ります。
図面が増えると、同じ設備を別々の図面に書くことになります。そこで、単線結線図では100kVAなのに負荷表では75kVA、といった食い違いがないかを見ます。機器容量、配線、保護方式、回路名を、単線結線図、幹線系統図、負荷表、平面図の間でそろえていきます。
5.施工・検査・引渡し
図面が完成しても、設計者の仕事はまだ続きます。施工者が施工図や総合図を作ると、設計者は「この機器に替えても必要な性能を満たすか」「この経路へ変更してもよいか」といった質問に答えます。工事監理者は、現場でできたものと設計図書を見比べます。
引渡し前には、完成図、試験成績書、機器完成図、取扱説明書、届出・検査書類がそろっているかを見ます。数年後に機器を交換するとき、完成図から電源や回路をたどれる状態にして、建物管理者へ渡します。
基本計画で先に決める内容
基本計画で「照明器具をどこへ付けようか」から始めると、受電方式や電気室の広さが変わったときに、やり直しが増えてしまいます。最初は細部へ入らず、建物全体へ影響する次の条件から見てみましょう。
- ・建物用途、規模、利用時間、運用人数
- ・電力・通信の供給状況、引込可能位置、希望受電日
- ・電灯、コンセント、空調、衛生、昇降機などの概算負荷
- ・停電時に維持する負荷と、非常電源の対象範囲
- ・電気室、EPS、通信機器室の位置と必要面積
- ・機器の搬出入経路、保守空間、浸水・換気への対策
- ・建築確認、消防用設備、自家用電気工作物に関する手続きの要否
手続きは案件ごとに変わるので、「前の現場と同じでよい」とは考えないほうが安心です。自家用電気工作物を新設するときは、保安規程や主任技術者の手続きがあり、設備によっては工事計画も必要です。単線結線図と工事内容を用意して、所管の産業保安監督部へ確認します。
建築・構造・他設備との取り合い
電気設備だけを見ていても、設計は完成しません。電気室へ機器を運べるか、天井内に配線を通せるか、空調機へどの電源を渡すかは、建築・構造・他設備の担当者と一緒に決めます。基本計画では、まず主要な室と経路さえ確保できていれば十分です。寸法や荷重、電源、制御、それに貫通位置まで固めるのは実施設計の仕事になります。

通信機器室を例にすると、機器が入れば終わりではありません。点検する人が立つ場所、将来機器を増やす場所、交換する機器を運び出す通路も必要です。国土交通省の「建築設備設計基準」は官庁施設向けなので、民間案件では発注仕様、建物用途、採用機器、契約で指定された基準を確認して使います。
成果図書で確認する対応関係
図面が一通りそろうと完成したように見えますが、もう一つ確認したいことがあります。同じ設備の名称、容量、回路、設置位置が、どの図面でも同じになっているかです。まずは次の組合せで見比べてみましょう。
もし図面どうしで内容が違っていたら、最新版の建築図と設備負荷表へ戻ります。どちらが正しいかを決めたら、変更した理由と決めた人を設計記録へ残します。片方の図面だけを直すと、積算担当者と施工者へ別々の情報が渡ってしまいます。
建築設備士試験との関係
建築設備士試験では、基本計画で決めた容量や配線を、実際に計算できるかが問われます。「計算問題は難しそう」と感じるかもしれませんが、与えられた条件を一つずつ式へ入れれば大丈夫です。この記事の内容に近い過去問を2問見てみましょう。
過去問例1:変圧器の1日の損失と効率を求める
設問:定格容量100kVA、無負荷損200W、定格負荷損1,500Wの変圧器があります。1日の負荷は、20kWが8時間、40kWが2時間、60kWが3時間、80kWが11時間です。力率を100%として、1日の損失電力量と全日効率を求めます。
回答例:無負荷損は負荷の大きさにかかわらず発生するので、0.2kW × 24時間 = 4.80kWhです。負荷損は負荷率の2乗に比例します。それぞれの時間帯を計算して合計すると13.14kWhになり、1日の損失電力量は4.80 + 13.14 = 17.94kWhです。負荷へ送った電力量は1,300kWhなので、全日効率は1,300 ÷ (1,300 + 17.94) × 100で約98.6%になります。
過去問例2:三相回路の電圧降下を求める
設問:三相3線式200Vの回路に、長さ30mのケーブルで25kWの三相負荷を接続します。負荷の力率は85%、効率は90%、ケーブルの抵抗は0.626Ω/km、リアクタンスは0.115Ω/kmです。線間の電圧降下を求めます。
回答例:まず線電流を求めます。25,000 ÷ (√3 × 200 × 0.85 × 0.90)で約94.3Aです。次に三相3線式の電圧降下の式へ、ケーブル長0.03km、力率0.85、sinφ = √(1 - 0.85²)を入れます。計算すると電圧降下は約2.9Vです。
この2つは、公式過去問に示された条件を基に編集部で計算した回答例です。試験では、答えの数値だけでなく、使った条件と計算の流れも答案に残しましょう。
基本計画チェックリスト
電気設備の設計担当者が基本計画をまとめるとき、「何か聞き忘れていないかな」と不安になったら、次の一覧を上から見てみましょう。建築主への聞き取り、敷地の条件、設備方式、電気室などの建築空間を一度に確認できます。
☐ 建物用途、規模、利用時間、予算、竣工時期を設計条件書で確認した
☐ 停電時に使う設備と必要な運転時間を建築主と確認した
☐ 電力・通信の供給状況、引込位置、希望受電日を関係事業者へ確認した
☐ 空調・衛生・昇降機等の概算電源容量と設置場所を受領した
☐ 電気室・EPS・通信機器室の位置、面積、搬入・保守経路を建築図で確認した
☐ 構造荷重、耐震固定、貫通、防火区画の確認時期を関係担当者と決めた
☐ 建築確認、消防、自家用電気工作物の手続きについて対象設備と所管を確認した
☐ 基本設計図書の名称、提出時期、承認者を契約書・特記仕様書で確認した
間違えやすいポイント
基本計画で機器型番まで決めてしまう場面
基本計画の途中では、建物用途や負荷がまだ変わります。型番を決める前に、どの方式にするか、おおよそ何kVA必要か、機器を置く広さがあるかを見ておきましょう。
よくある間違い:初期の負荷表だけを根拠に電気設備の機器型番や盤寸法を確定し、空調・衛生・昇降機の容量変更後も電気室面積と搬入経路を見直さないことです。
確認すべきこと:最新版の設備負荷表、建築平面図・断面図、候補機器の外形・保守寸法を照合します。概算容量と必要空間を更新し、型番の決定時期を設計工程表へ記載します。
設計図と施工図を同じ図面として扱う場面
設計図と施工図は、どちらも工事に使うので同じものに見えるかもしれません。設計図は必要な性能を伝える図面、施工図は現場でどう納めるかを示す図面です。
よくある間違い:施工図に記載された配線経路や機器配置を、設計条件との照合をせず設計変更として扱い、変更理由と承認記録を残さないことです。
確認すべきこと:設計図書、質疑回答書、施工図、総合図を照合します。変更が必要な場合は、性能、法令、工事費、工程への影響を確認し、契約で定めた承認手続きと設計変更図書へ反映します。
外部手続きを全案件で同じと考える場面
以前の案件で使った届出一覧があると、そのまま使いたくなります。ただし、新築か改修か、高圧か低圧か、発電設備があるかによって、確認する相手と書類は変わります。
よくある間違い:別案件の届出一覧だけを使い、対象設備、受電電圧、工事内容、所管を確認せず、同じ提出先と期限を設定することです。
確認すべきこと:単線結線図、設備仕様書、工事範囲、建物用途を用意し、供給区域の一般送配電事業者、所轄消防、所管の産業保安監督部へ確認します。回答を基に必要書類、提出者、提出時期を工程表へ記載します。
まとめ
電気設備設計の順番が分からなくなったら、「要求を聞く→現地を調べる→大きな方針を決める→工事できる図面にする→現場と引渡しを確認する」へ戻ってみてください。基本計画では受電方式、おおよその負荷、非常電源、電気室と主要経路まで決めれば十分です。細かな仕様、寸法、配線、計算書は実施設計で固めます。
次の設計案件では、まず契約書・特記仕様書、最新版の建築図、設備負荷表、電力・通信事業者からの回答を机に並べてみましょう。今いる工程が分かれば、「今日はどこまで決めればよいか」も見えてきます。
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参考・出典
- ・国土交通省「建築士事務所の開設者がその業務に関して請求することのできる報酬の基準とガイドライン」
- ・国土交通省「公共建築設計業務委託共通仕様書(令和6年改定)」
- ・国土交通省「建築設備設計基準 令和6年版」
- ・e-Gov法令検索「建築士法」
- ・経済産業省 那覇産業保安監督事務所「新設する場合(自家用電気工作物)の手続き」
- ・建築技術教育普及センター「令和7年 建築設備士試験 第二次試験(設計製図)」
