温熱感覚(温熱6要素)と分かりにくい温熱指標(不快指数や有効温度など)の種類を解説

人が暑さ・寒さをどう感じるかを数値化したものが温熱指標です。
温熱指標は環境側の温熱要素と人体側の温熱要素の組み合わせによって、大きくは5種類の指標があります。

ここでは、温熱指標の種類や、その構成要素である6つの温熱感覚(温熱6要素)について解説していきます。

暑さ・寒さや空間の快適さを制御していく空調計画をするためには、是非理解しておきたい内容になります。頑張って理解していきましょう。

温熱感覚(温熱6要素)とは

まずは人が暑さや寒さを感じる感覚について理解しましょう。
この暑さ・寒さを感じる感覚のことを温熱感覚といいます。
温熱感覚に影響をあたえる要素には2種類あり、環境側の要素と人体側の要素に分けられます。
環境側で影響を与える要素としては、気温・湿度・気流・放射の4つがあります。
人体側で影響を与える要素としては、代謝量と着衣量の2種類があります。
外部的な状況か、自分自身の状況かという感じです。

この6つの要素のことを温熱6要素といいます。
温熱6要素は建築士の試験にも出題される用語です。

それでは、この6つの要素がどのようなものかを確認していきましょう。

気温

これは分かり易いと思いますが、気温は室内の温度のことをいいます。
気温の快適範囲は、夏期で25〜28℃、冬期は17〜22℃といわれています。
空調の設定温度も、電気代のことも考慮してこの辺りに設定することが多いのではないでしょうか。
また、気温(室内の温度)は、上下方向の温度差も快適度に影響を与えます。
椅子に座った状態で、床上10cm〜1.1mの範囲で、温度差を3℃以内にすることが理想的です。
冬場などは上下の温度差が大きすぎると、実際の温度よりも寒く感じてしまいます。

湿度

湿度も体感温度に大きな影響を与えます。
気温が同じでも湿度が高いと暑く感じ、湿度が低いと寒く感じます。
夏場、京都と北海道が同じ気温だとしても、京都が蒸し暑く北海道がカラッと過ごしやすかったりするのはこの湿度の影響です。
なぜ湿度が高いと暑く感じるのか?
それは、汗が蒸発する際の気化熱が影響してきます。
人間は暑くなると汗をかきます。その汗が蒸発するときに体表面から気化熱を奪っていきます。気化熱が奪われることで体が冷やされ涼しく感じるのです。
しかし、湿度が高くなると汗が蒸発しにくくなり、体を冷やすことができなくなるのです。

気流

空気の流れを気流といいます。
気流も体感温度に大きな影響を与えます。
夏場に扇風機で体に風を当てると涼しく感じます。お風呂上がりなどはとても気持ちが良いものです。
これは風によって汗や体表面の水分の蒸発が促され、気化熱の作用によって涼しく感じているのです。
逆に冬の寒いときに風を感じるとさらに寒感じます。
このように、気流によっても快適さは大きく変わってきます。
また、冬場に窓から冷気が足下に流れてくる、冷たい不快な冷気流をコールドドラフトといいます。
この場合には、窓際に暖房などを設置すると寒さを緩和するのに有効です。

放射(輻射)

放射というのは物体から熱エネルギーが電磁波として放出される現象です。
建物でいうと壁・天井・床・窓などから伝わってくる熱のことです。
放射と輻射は同じ意味です。輻射熱などはよく聞く言葉ですが、放射熱と同じ意味です。
一般的に使われるのは輻射の方が多いかもしれませんが、学術的には放射を使うようです。
この放射温度の差も温熱感覚に大きな影響を与えます。
冬季の冷たい窓や壁に対する放射温度の差は10℃以内といわれています。
暑い天井からの放射温度差は5℃以内といわれています。

代謝量

代謝量は人が運動や作業を行うことによって発生するエネルギーのことをいいます。
体表面積1m2当たりの熱量(W/m2)のことです。
代謝量の基準値met(メット)というものがあります。
標準的な成人が椅子に座って安静にしている状態の代謝量が58.2(W/m2)です。
この値を代謝量の基準値1met(メット)としています。
標準的な成人の体表面積は1.6~1.8m2程度なので、代謝量の基準値となる椅子に座っている状態での代謝量は、58.2×1.6〜1.8≒100Wとなります。

運動量ごとの代謝量

椅座安静:1met(基準値)
事務作業:1.2met
歩  行:3met
重 作 業;3.7met

着衣量

着衣量は人の着衣による値で、単位はclo(クロ)という単位で表されます。
このcloという単位は、英語のclothes(衣服)の頭文字です。
着衣量は、気温21℃、相対湿度50%、気流0.1m/sの室内で、快適と感じる着衣量の熱抵抗値を1cloとしています。
clo値が大きくなると、着衣の断熱性によって体から熱が逃げにくい状態になります。
1cloは標準的なスーツ姿に相当する値です。

着衣量ごとのclo値

裸:0clo
夏服:0.6clo
スーツ:1clo(基準値)
冬服:1.5clo

温熱指標の種類と温熱6要素との関係

人が感じる快適さを示すのが温熱指標です。
温熱指標には様々なものがあります。
ここでは代表的な温熱指標の解説と温熱6要素との関係を見ていきたいと思います。

不快指数(DI)

不快指数(DI:Discomfort Index)は、蒸し暑さを示す指標です。
この不快指数DIの数値が
75以上:やや暑い
80以上:暑くて汗が出る
85以上:暑くてたまらない
となります。

不快指数は下記の算定式で求めることができます。
不快指数DI=0.72(気温+湿球温度)+40.6

【温熱6要素との関係】気温・湿度

作用温度(OT)

作用温度(OT:Operative Temperature)は放射暖房をする際の指標として用いられます。

【温熱6要素との関係】気温・気流・放射

有効温度(ET)

有効温度(ET:Effective Temperature)とは、ある気温、湿度、気流の時に、それと同程度と体感する気温、湿度100%、気流0m/sに相当する指標です。

この有効温度ETの気温、湿度、気流に放射の影響を加えたものが修正有効温度(CET)です。

【温熱6要素との関係】気温・湿度・気流(・放射)※( )は修正有効温度

新有効温度(ET*)

新有効温度(ET*:Effective Temperature Star)とは、湿度50%を基準として、温熱6要素によって総合的に評価した温度のこと。

先述の有効温度ETは湿度100%としているので、現実の一般的な環境からはかけ離れてしまっています。
そのため、湿度50%を基準としているこの新有効温度ET*が使われるようになっています。

【温熱6要素との関係】気温・湿度・気流・放射・代謝量・着衣量

標準新有効温度(SET*)

新有効温度ET* を標準化し、快適さを比較できるようにしたのが標準新有効温度(SET*:Standard Effective Temperature)です。
ASHRAEでは、標準体感温度として採用されています。

<<標準環境>>
活動量=1.0met(軽いデスクワーク)
着衣量=0.6clo(ワイシャツ、ズボン程度の服装)
風速=0.1m/s
相対湿度=50%RH

快適域は22.2℃~25.6℃とされています。

【温熱6要素との関係】気温・湿度・気流・放射・代謝量・着衣量

予測平均温冷感申告(PMV)

暑くも寒くもない熱的中立状態において、大多数の人が感じる温冷感平均値を予想した温熱指標です。
この指標は-3から+3の数値で表されます。

PMV温冷感
+3暑い
+2暖かい
+1やや暖かい
0どちらでもない
-1やや涼しい
-2涼しい
-3寒い

PMV=0で95%の人が快適と感じますが、5%の人は不快と感じるといわれています。

不満足を感じる人の割合をPPD(予測不満足者率)といいます。

この記事のまとめ

今回は人の感じる温熱感覚(温熱6要素)とその要素を使って人が感じる快適さを示す温熱指標について解説していきました。

空調設備で人が快適に過ごすための環境を実現するために是非知っておきたい用語ばかりです。

温熱指標などは似たような表記ばかりで覚えにくいですが、その内容・使われ方だけでなくどの要素を使って示された指標なのかを理解しておきましょう。