給湯温度と使用温度の設定|60℃で送って40℃前後で使う理由
中央式給湯の機器表に「貯湯温度60℃」と書いたとき、「60℃のお湯なんて、手を洗ったらやけどしませんか?」と聞かれて、うまく答えられなかった経験はありませんか。給湯設備を担当し始めると、たいてい一度はこの疑問にぶつかります。
答えを先に言うと、給湯温度と使用温度は別の温度で、決める理由も違います。
- 給湯温度:お湯をつくって配管で送るときの温度。中央式給湯では、レジオネラ属菌を増やさないために、貯湯槽で60℃以上、温度が安定した給湯栓でも55℃以上を保つのが基本です。
- 使用温度:人が実際に手や体に触れるときの温度。用途、利用者、施設の安全基準に合わせて決めます。
この二つの差は、水栓やミキシングバルブで水を混ぜて埋めます。つまり「高い温度で送って、使う場所で下げる」のが中央式給湯の基本的な考え方です。
この記事では、それぞれの温度を決める理由、60℃の湯を40℃にする計算、設計図と竣工後の管理で見る場所を順番に説明します。
給湯温度と使用温度の違い
最初に、二つの温度がどこの温度なのかをはっきりさせておきましょう。中央式給湯は、機械室の加熱装置と貯湯槽でお湯をつくり、往き管で各階の器具へ送り、使われなかったお湯を返湯管で貯湯槽へ戻して循環させる方式です。
この経路のうち、貯湯槽から混合器具の給湯側入口までが給湯温度を管理する範囲で、水と混ぜたあとに人が触れる湯が使用温度です。

ここを混同すると、「60℃はやけどが心配だから、貯湯温度を45℃に下げておこう」という判断をしてしまいます。やけどの心配は使用温度の問題なので、使う場所の混合で解決します。貯湯温度を下げると、今度は衛生面の問題が出てきます。
住宅の給湯器のように器具の近くでお湯をつくってすぐ使う局所式では、お湯を長時間ためたり循環させたりしません。この記事では、温度の使い分けがはっきり必要になる中央式給湯を中心に説明します。
給湯温度を60℃・55℃に保つ理由
レジオネラ属菌と給湯温度
給湯温度を高く保つ一番の理由は、レジオネラ属菌の対策です。レジオネラ症は、菌に汚染された細かい水しぶき(エアロゾル)を吸い込むことなどで感染します。給湯設備では、シャワーから出る細かなしぶきが感染経路になり得ます。
貯湯槽や配管の中のお湯がぬるい温度で長く留まると、菌が増える原因になります。そこで、菌が増えにくい高い温度を系統全体で保ちます。厚生労働省も、レジオネラ属菌は60℃で5分間で殺菌されると説明しています。
厚生労働省が示す60℃と55℃
具体的な数値は、厚生労働省の「建築物における維持管理マニュアル」に、中央式給湯の管理方法として示されています。
- ふだんの貯湯温度は60℃以上にする
- 出始めの冷めたお湯(初流水)を捨て、温度が一定になった給湯栓で55℃以上を保つ
- お湯が一番多く使われるピーク時でも、貯湯温度は55℃以上を保つ
- 系統の末端や、循環が悪くてお湯が出るまで時間がかかる給湯栓も、定期的に温度を測る
ここで注意したいのは、55℃は返湯管の温度計だけでなく、実際の給湯栓でも確かめる値だということです。貯湯槽を60℃に設定していても、配管が長い、保温が足りない、循環量が少ない、といった理由で末端のお湯は冷めていきます。55℃は「系統の一番冷めやすいところまで、温かいお湯が届いているか」を確かめるための数字だと考えてください。
設計時は、配管から逃げる熱量と必要な循環流量を計算し、最も温度が下がりやすい末端でも55℃以上を確保できるか確かめます。
建築物衛生法の対象になる特定建築物の中央式給湯では、給湯水について給水栓で水質検査を行います。ただし、給湯設備が適切に維持管理され、末端の給湯栓で55℃以上に保たれている場合は、遊離残留塩素の含有率の検査を省略できる扱いです。
用途によって条件が変わる施設
60℃・55℃は中央式給湯の維持管理で重要な値ですが、すべての建物に同じ形で義務付けられている一律の規定ではありません。特に次の施設は、用途ごとの基準を別に確認します。
- 公衆浴場:国の「公衆浴場における衛生等管理要領」で、貯湯槽を60℃以上、最大使用時も55℃以上に保つこと、それが難しい場合は消毒装置を設けることが示されています。
- 旅館・ホテル:国の「旅館業における衛生等管理要領」で、貯湯槽を60℃以上、最大使用時も55℃以上に保つこと、それが難しい場合は消毒装置を設けることが示されています。
- 病院・福祉施設など:発注者や施設独自の衛生基準がある場合があります。
公衆浴場や旅館の営業許可に関わる要件は、計画地の条例や保健所の指導で決まります。国の要領だけで判断せず、設計の早い段階で保健所に確認しておきましょう。
温度だけでは防げない「滞留」
給湯温度を守るだけでは十分ではありません。貯湯槽が60℃でも、使われない枝管にお湯が何日も留まっていれば、そこは冷めて菌が増えやすい場所になります。配管の内側にできる生物膜(ぬめり)も、菌のすみかになります。
設計図や現場では、次のようなところを見てください。
- 往き管と返湯管が、最も遠い器具の近くまで循環する経路になっているか
- 将来用に延ばした配管や、器具を撤去したあとの枝管が、行き止まり(デッドレグ)として残っていないか
- 貯湯槽の水を抜いて清掃できる排水口や点検口があるか
- 配管の保温が、管の太さや材質、通る場所に合った仕様になっているか
「60℃で5分なら殺菌できる」という数字を、そのまま設備の熱消毒の手順にしないことも大切です。配管全体が60℃に達するまでの時間、器具が耐えられる温度、消毒中の利用者のやけど防止などを含めて、施設の衛生管理手順とメーカーの仕様で決めます。
使用温度は用途と利用者で決める
使用温度は、浴槽、シャワー、洗面・手洗い、厨房機器など、何にお湯を使うかで変わります。同じ用途でも季節や利用者によって使いやすい温度は変わるため、用途別の数値をそのまま全案件へ当てはめることはできません。
人が直接触れるシャワーや洗面では熱傷を避けることを優先します。一方、食器洗浄機など機械の中で使う湯は、機器側で必要温度が定められています。専用の昇温装置(ブースター)が必要か、どの温度の湯を供給するかは、採用機器の仕様書で確認します。
設計条件として採用する使用温度は、発注者基準、施設基準、所管行政の指導、採用機器の仕様を確認し、計算書と特記仕様書へ残します。
50℃でも安全とはいえない
使用温度を考えるときに一番大事なのは、やけどです。製品評価技術基盤機構(NITE)は、低温やけどについて、44℃で3〜4時間、46℃で30分〜1時間、50℃では2〜3分で起こるとしています。これは暖房器具などに触れ続けた場合の注意喚起なので、流水にさらされる場合と条件は同じではありません。それでも、「50℃くらいなら大丈夫」とは言えないことがわかります。55℃や60℃の給湯栓のお湯を、そのまま手や体に当てるのは危険です。
特に気をつけたいのは、幼児、高齢者、患者、温度を感じにくい人、自分で水栓を止めるのが難しい人が使う施設です。こうした施設では、供給できる温度の上限を決めていることがあります。全国一律の数値があるわけではないので、発注者の安全基準、施設の基準、所管行政の指導、器具メーカーの制限温度を案件ごとに確認してください。
60℃の湯を使用温度まで下げる方法
給湯温度は高く保ちたい一方で、使うときには下げなければなりません。この二つを両立させるのが、湯と水を混ぜる器具です。
混合の方法は3種類
代表的な方法は次の3つです。
- 湯水混合水栓:器具ごとに、蛇口で湯と水を混ぜます。2ハンドルやシングルレバーの水栓がこれにあたります。
- サーモスタット付き湯水混合水栓:設定した温度になるよう、水栓の中で湯と水の割合を自動で調整します。シャワーでよく使われます。
- ミキシングバルブ(混合弁):系統の途中や器具群の手前に設けて、まとめて使用温度近くまで下げてから送ります。
サーモスタット付き水栓は、給水や給湯の圧力・温度が変わったときに混合割合を調整します。ただ、選んだだけで安全確認が終わるわけではありません。給水が止まったときにどう動くか、必要な給湯圧力と最低流量、温度の上限を制限する機構があるか、どうやって点検するかを、製品の仕様書で確認します。
現行の給水栓規格はJIS B 2061:2023です。機器表や特記仕様書に旧版の年号を写さず、採用製品が現行規格のどの性能に適合しているかをメーカー資料で確かめます。自動温度調整性能の具体的な許容差は、規格本文や製品の適合資料を確認せずに数値を断定しません。
湯水混合の計算で必要湯量を出す
ここまでの話を数字で確かめてみましょう。60℃のお湯と水を混ぜて40℃にするには、それぞれどれだけ流せばよいかという計算です。器具の必要湯量や給湯器の能力を考えるときの基本になります。
混合温度の式
湯と水の密度と比熱を同じとみなし、配管から逃げる熱を無視すると、混ぜたあとの温度は次の式で求められます。
\[ T_m=\frac{Q_hT_h+Q_cT_c}{Q_h+Q_c} \]
- \(T_m\):混合後の温度(℃)
- \(T_h\):お湯の温度(℃)
- \(T_c\):水の温度(℃)
- \(Q_h\):お湯の量(L/min)
- \(Q_c\):水の量(L/min)
湯と水の温度をそれぞれの量で重み付けして平均している、と考えるとわかりやすいでしょう。
設計では、混ぜたあとの温度 \(T_m\) と合計の流量 \(Q_m\) を先に決めて、必要なお湯の量を求めることが多いので、式を変形して使います。
\[ Q_h=Q_m\frac{T_m-T_c}{T_h-T_c} \]
計算例:夏と冬で比べる
60℃のお湯と水を混ぜて、40℃のお湯を10 L/min出す場合を考えます。水の温度が15℃のときは、次のとおりです。
\[ Q_h=10\times\frac{40-15}{60-15}=5.56\ \mathrm{L/min} \]
水の量は、10-5.56=4.44 L/minです。お湯と水をほぼ半分ずつ使うことになります。
同じ条件で、冬に水の温度が5℃まで下がったとします。
\[ Q_h=10\times\frac{40-5}{60-5}=6.36\ \mathrm{L/min} \]
お湯の量が約0.8 L/min増えました。水が冷たいほど、同じ40℃をつくるのに多くのお湯が必要になります。給湯器や貯湯槽の容量を決めるときに、冬の給水温度で計算するのはこのためです。
ここで使った15℃、5℃、40℃は、計算の流れを示すための条件であり、用途別の推奨値ではありません。実際の設計では、計画地の冬の給水温度、器具までの配管でお湯が冷める分、同時に使ったときの圧力変動を考え、メーカーの選定資料に条件を入れて確認します。
ここでは湯と水を混ぜる量の計算に絞りました。給湯量や貯湯槽・加熱装置の容量まで計算するときは、『給排水衛生設備実務パーフェクトマニュアル[第2版]』の給湯設備の章が参考になります。設計条件を変えながら計算を確かめたい方は、掲載されている計算式や書式も見てみてください。
図面と管理記録で確認するところ
最後に、ここまでの内容を図面と管理のどこで確かめるかを整理しておきます。温度の計画は一枚の図面では完結しないので、次の3つを行き来しながら見ていきます。
給湯系統図
系統図では、貯湯槽から加熱装置、往き管、各階の器具、返湯管、循環ポンプまでを指でたどってみてください。最も遠い器具の近くまで循環しているか、循環しない長い枝管が残っていないかがわかります。末端の温度を測る場所や、温度計を付ける位置も、この段階で決めておくと竣工後の管理が楽になります。
機器表と特記仕様書
機器表には、貯湯温度だけでなく、ピーク時の条件、末端で確保する温度、混合後の温度の設定範囲も書いておきます。サーモスタット付き水栓やミキシングバルブは、製品名だけを書くのではなく、使用圧力、必要流量、温度調整範囲、給水が止まったときの安全機能まで確認して記載しましょう。
竣工後の温度記録
建物が使われ始めたら、貯湯槽や返湯管の温度計の表示だけでなく、代表的な給湯栓、系統の末端、お湯が出るまで時間がかかる器具で実際に温度を測ります。ふだんの時間帯とピーク時を分けて、初流水をどれくらい流したか、温度が安定したときの値を記録しておきます。改修で器具を撤去したり設定温度を変えたりしたときは、行き止まりの枝管ができていないか、末端の温度が下がっていないかを、系統図に戻って確認してください。
まとめ|給湯温度と使用温度の要点
給湯温度と使用温度は、同じ「お湯の温度」でも役割が違います。
- 給湯温度は衛生のための温度です。中央式給湯では、貯湯槽60℃以上、温度が安定した給湯栓で55℃以上、ピーク時も貯湯槽55℃以上を保ち、滞留をなくして清掃できるようにしておきます。
- 使用温度は人が使うための温度です。用途、利用者、施設基準、器具仕様に合わせ、やけどを防ぐことを優先して決めます。50℃でも安全とはいえません。
- 二つの温度の差は、混合水栓、サーモスタット付き水栓、ミキシングバルブで埋めます。必要なお湯の量は混合の式で計算し、冬の給水温度でも確認します。
「高い温度で送って、使う場所で下げる」。この考え方を押さえておけば、機器表の60℃を見ても、衛生管理と熱傷防止を分けて検討できます。公衆浴場、旅館、医療・福祉施設では、国の指針に加えて計画地の条例や保健所、発注者の基準も確認してください。
関連記事
参考・出典
- 厚生労働省「建築物における維持管理マニュアル」
- 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」
- 厚生労働省「レジオネラ症」
- 厚生労働省「公衆浴場における衛生等管理要領の一部改正について」
- 厚生労働省「旅館業における衛生等管理要領の一部改正について」
- 日本規格協会「JIS B 2061:2023 給水栓」
- 独立行政法人製品評価技術基盤機構「製品安全教育DVDハンドブック(低温やけどの事故)」
給排水設備の設計で参考にしている本
給排水設備を設計するとき、給湯だけでなく、給水・排水・衛生器具まで仕組みをまとめて見返せる本があると便利です。私がよく参考にしているのが、土井巖さんの『図解入門 よくわかる最新給排水衛生設備の基本と仕組み[第2版]』です。各設備の役割やつながりを図で追えるので、給排水設備を学び始めた方にも読みやすい一冊です。


