上水・中水・下水の違い|雑用水と節水を建築計画から考える
「上水・中水・下水は、きれいさの順に三つへ分けたもの」と覚えていないでしょうか。最初の理解としては分かりやすいのですが、実務では少し注意が必要です。
この三つは、同じ法律が同じ基準で三分類した用語ではありません。特に「中水」は広く使われる通称で、法令や行政資料では「雑用水」「雨水利用水」「再生水」など、水源と用途が分かる名称で扱われます。また、下水道が扱う「下水」には、使用後の汚水だけでなく雨水も含まれます。
この記事では、似た言葉の違いを整理したうえで、雨水や再生水を使う場合に何を検討するのかを、設計から維持管理まで順に説明します。すべての処理方式を覚える必要はありません。まずは「どこから来た水を、何に使い、どこへ流すか」を分けて考えられるようになりましょう。
上水・中水・下水は、同じ基準の三分類ではない
三つの言葉を理解するときは、水のきれいさだけでなく、「供給する水」「非飲用用途に使う水」「排除する水」という役割で分けると混同しにくくなります。

上水は、飲用に適する水として供給される水
水道法では「水道」を、導管などによって、水を人の飲用に適する水として供給する施設の総体と定義しています。この記事では、水道から供給される飲用に適する水を中心に、実務上の呼び方として「上水」とします。
建物では、飲用や炊事だけでなく、洗面、手洗い、入浴など、人の生活に関わる用途へ使います。ただし、どの用途にどの水質が必要かは、「人が飲むかどうか」だけで決めません。たとえば、水洗便所の洗浄水が手洗いや温水洗浄便座にも併用される場合、厚生労働省の管理基準では飲料水としての適用を受けます。
中水は通称で、制度上は「雑用水」などを確認する
「中水」は、上水と下水の中間にある水として、雨水や処理した排水を非飲用用途へ使う場合に広く使われる言葉です。しかし、水源も用途も一種類ではありません。
厚生労働省は「雑用水」について、建築物内で発生した排水の再生水のほか、雨水、下水処理水、工業用水などを、便所洗浄、水景、栽培、清掃などに用いる水と説明しています。
そのため、設計図書や所管協議では「中水」とだけ書かず、次の二つを明らかにします。
- 水源は何か:屋根雨水、建物内排水の再生水、下水処理再生水、工業用水など
- 何に使うか:便所洗浄、散水、修景、清掃など
同じ雑用水でも、原水と用途が変われば、必要な処理、水質管理、設備構成が変わります。
下水は、使用後の汚水だけとは限らない
日常会話では、台所、浴室、便所などから流した水を下水と呼ぶことが多いでしょう。一方、下水道の制度では、汚水に加えて雨水も扱います。
下水の排除方式には、汚水と雨水を別々の管で排除する分流式と、同じ管で排除する合流式があります。この違いは、敷地内の排水計画や雨水利用設備のオーバーフロー先を考えるときにも関係します。
「下水=使い終わった上水」とだけ捉えず、計画地の下水道が何を、どの系統で受け入れるのかまで見ておくと、排水計画とのつながりが分かりやすくなります。
節水は、蛇口の使用量だけを減らす話ではない
節水というと、節水型の水栓や便器を思い浮かべやすいところです。器具による使用量削減は大切ですが、建築設備では、必要な水質と水量を用途ごとに見直すことも節水計画に含まれます。
水道法は、水を貴重な資源と位置付け、適正かつ合理的な使用に努めることを定めています。また、国土交通省の官庁施設向け基準では、雨水利用を、水資源の有効利用だけでなく、下水道などへの雨水の集中的な流出を抑える観点からも位置付けています。
つまり、雨水利用には二つの役割があります。一つは上水使用量を減らすこと、もう一つは降雨時の流出を調整することです。ただし、貯留槽を大きくすれば必ずよいとは限りません。集められる雨水量、使う水量、降雨の季節変動、放流条件、維持管理を合わせて検討します。
節水手法は、次の順に考える
- まず、無駄な使用を減らす器具と運用を検討する
- 次に、用途ごとに必要な水質を確認する
- 雨水や再生水で代替できる用途と水量を確認する
- 処理・搬送・維持管理に必要な設備と費用を比較する
- 渇水時、少雨時、故障時にどう補給し、どう停止するかを決める
雨水や再生水を使う設備にも、ポンプ、処理装置、薬注、監視などの電力と維持管理が必要です。「上水使用量が減る」だけで採否を決めず、建物の利用期間を通した水量、費用、管理体制を比較します。
雨水・排水再利用は、原水と用途から計画する
国土交通省の「雨水利用・排水再利用設備計画基準」は官庁施設向けですが、基本計画で確認する項目は民間建築でも参考になります。ただし、民間案件へ同じ基準がそのまま法的に適用されるわけではありません。
1. 計画地の制度と建物条件を確認する
最初に、所在地、建物用途、延べ面積、特定建築物への該当、下水道の排除方式を整理します。そのうえで、自治体の条例・要綱、届出、助成制度を確認します。
東京都の「水の有効利用促進要綱」のように、一定規模以上の建築物へ雑用水利用や雨水利用への協力を求める制度があります。ただし、対象規模は利用方式によって異なります。東京都の面積を全国共通の基準として使うことはできません。
2. 原水と利用用途を決める
屋根雨水は、集水面の汚染状況や降雨量に左右されます。建物内排水の再利用は、対象とする排水の水量と水質、処理方法が計画へ影響します。
利用用途は、便所洗浄、散水、修景、清掃などから検討します。人が触れる可能性、飛沫を吸い込む可能性、誤飲・誤使用の可能性を確認し、用途に必要な水質を決めます。
3. 水収支を確認する
水収支とは、供給できる水量と使う水量のつり合いです。年間合計だけでなく、日ごと・季節ごとの変動を見ます。
雨が続く時期には貯留槽が満水となり、少雨時には雑用水が不足します。排水再利用では、建物が休業して原水が減る日もあります。満水時の排水先と、不足時の補給方法を先に決めておく必要があります。
4. 処理・貯留・搬送・監視を組み立てる
基本計画では、処理フロー、貯留槽、ポンプ、監視制御、上水補給方法を検討します。設備の種類や大きさは、原水、用途、水量、水質で変わります。
ここで建築計画に影響するのが、水槽と機器の設置場所、配管シャフト、点検・清掃・更新の動線です。「中水設備には広大な地下空間が必要」と一律には言えませんが、標準的な上水だけの計画より設備が増えるため、基本設計の早い段階で必要条件を受け取ります。
5. 維持管理と異常時対応を決める
処理水をつくれても、水質検査、薬品補充、槽内清掃、機器点検を続けられなければ運用できません。誰が、どこで、何を測り、異常時にどこを止めるのかを決めます。
厚生労働省の建築物環境衛生管理基準では、特定建築物で雨水や下水処理水等を雑用水に使う場合、用途別の水質基準と検査頻度が定められています。たとえば給水栓の遊離残留塩素は、原則として0.1 mg/L以上を保持します。
この数値をすべての建物へ一律に当てはめることはできません。建物が特定建築物に該当するか、原水と用途は何か、自治体が追加条件を設けていないかを確認します。
飲料水と雑用水は、図面・表示・試験で分離する
雑用水計画で最も避けたいのは、飲料水系統への混入と、利用者の誤飲・誤使用です。配管を二系統に描くだけでなく、施工と維持管理まで同じ考え方を通します。

系統を直接つながない
雑用水が不足したときに上水で補給する場合も、飲料水管と雑用水管を直接接続しません。厚生労働省の維持管理マニュアルでは、飲料水補給設備が吐水口空間を取って雑用水設備へ供給されていることを確認するよう示しています。
吐水口空間とは、給水管の先端と水を受ける槽の間に設ける物理的な空間です。水が逆流して飲料水側へ戻る経路を断ちます。
見分けられるようにする
飲料水管と雑用水管は、配管材、識別色、テープ、表示などで見分けられるようにします。水栓にも雑用水・飲用禁止の表示を行い、一般の人が誤って使わない配置や構造とします。
識別方法は、設計図、仕様書、施工図、竣工図で一致させます。改修で配管を増設した後も、表示と接続先を再確認します。
竣工時と改修時に接続先を試験する
厚生労働省のマニュアルは、竣工時に雑用水へ着色して通水し、飲料水の器具から着色水が出ないことを確認する方法を示しています。
目視で配管を追うだけでは、壁や天井内の誤接続を見落とすことがあります。試験方法、記録、異常時の是正手順まで施工計画へ含めます。
建築・構造・電気との取り合い
雨水・排水再利用設備は、衛生設備担当だけでは納まりません。基本設計で、次の条件を関係者へ渡します。
特に意匠計画では、水槽が置けるかだけでなく、清掃作業ができるか、交換時に機器を搬出できるか、漏水時にほかの室へ影響しないかを確認します。
建築設備士試験では、名称より原水・用途・系統を見る
このテーマは、給排水衛生設備の水質管理、雑用水利用、配管の誤接続防止とつながります。似た言葉が多いので、名称を一つずつ暗記するより、「どこから来た水を、何に使い、どの系統で送るのか」をたどる方が整理しやすい分野です。
最初から基準をすべて覚える必要はありません。まずは問題文の中から、判断に必要な条件を見つけるところから始めます。
問題文で見る手掛かり
- 原水:雨水、建物内の排水再利用水、下水処理水など、何をもとにした水か
- 用途:便所洗浄、散水、清掃、手洗いなど、どこで使う水か
- 建物条件:特定建築物に該当するか、どの管理基準が関係するか
- 系統:飲料水と雑用水が分離され、誤接続や逆流を防げる構成か
- 数値の対象:示された水質の数値が、どの水・用途・条件に対するものか
問題文に「中水」と書かれていても、その言葉だけでは用途や必要水質までは決まりません。前後にある原水と用途を一緒に見ると、選択肢の前提がつかみやすくなります。
数値や用語は、対象と一緒に整理する
たとえば、遊離残留塩素0.1 mg/L以上という数値は、雑用水だけに現れる数字ではありません。数字の横に「どの水を、どの用途へ供給する場面か」を添えておくと、似た選択肢を見分けやすくなります。
「中水」「雑用水」「再生水」も、同じ意味の法令用語としてまとめない方が理解しやすくなります。中水は広く使われる通称、雑用水は用途を表す制度上の呼び方、再生水は処理して再利用する水というように、言葉が示している範囲を分けて捉えます。
似た選択肢は、接続方法まで見る
迷いやすいのが、上水から雑用水設備へ補給する選択肢です。上水を補給すること自体ではなく、飲料水管と雑用水管が直接つながっていないかが見分ける手掛かりになります。
バルブが付いていても、それだけで二つの系統が分離されたことにはなりません。吐水口空間などによって逆流する経路が断たれているかを見ると、選択肢の違いが分かりやすくなります。
判断する順番
- 原水と用途の組み合わせを読む
- 人が飲む、触れる、飛沫を吸い込む可能性を考える
- 飲料水系統との接続方法と、逆流防止の考え方を見る
- 数値があれば、対象用途、建物条件、適用される基準を対応させる
- 地域の条例や所管によって条件が変わる内容かを確かめる
この順番で読むと、「名称は合っているけれど用途が違う」「数値は合っているけれど対象が違う」といった選択肢にも気づきやすくなります。
なお、ここで示したのは、本記事の内容を試験学習へつなげるための整理です。法令や基準は改正されるため、受験年度の法令集と試験実施機関の案内もあわせて確認します。
間違えやすいポイント
ここでは、言葉の印象だけで判断したときに起こりやすい間違いをまとめます。「よくある間違い」と「確認すべきこと」を一組で見ていくと、実務でも試験学習でも整理しやすくなります。
上水・中水・下水を、水質の三段階と考える
よくある間違い 上水・中水・下水は、水のきれいさによって三段階に分けられている。
確認すべきこと 三つは同じ基準による水質等級ではありません。上水は供給、中水は非飲用利用に関する通称、下水は排除というように、役割と制度上の名称を分けて見ます。
雨水なら、そのまま便所洗浄に使えると考える
よくある間違い 屋根に降った雨水なら、処理や管理を考えずに便所洗浄水へ使える。
確認すべきこと 集水面の状態、利用用途、必要水質、処理、貯留、監視を順に見ます。屋根面でも汚染のおそれがあるため、用途に合った対策が必要です。
雑用水は、人が飲まなければ水質管理が不要と考える
よくある間違い 飲用しない水なので、水質検査や利用者への配慮は必要ない。
確認すべきこと 雑用水にも用途別の水質管理があります。人が直接飲まなくても、飛沫を吸い込むことや、誤飲・誤使用の可能性を含めて考えます。
補給管にバルブがあれば、直接接続してよいと考える
よくある間違い 上水の補給管にバルブが付いていれば、雑用水系統へ直接つないでも問題ない。
確認すべきこと バルブだけでは、飲料水系統と雑用水系統を物理的に分離したことにはなりません。吐水口空間など、逆流経路を断つ方法まで見ます。
自治体の基準を、全国共通の条件として使う
よくある間違い ある自治体の対象面積や手続を、別の地域でもそのまま使える。
確認すべきこと 対象規模、利用方式、届出や協議の条件は地域によって異なります。計画地の条例・要綱と所管窓口を確認します。
初期降雨は、どの計画でも同じ量を排除すると考える
よくある間違い 雨水利用では、初期降雨を全国共通の一定量だけ捨てればよい。
確認すべきこと 必要な対応は、集水面、用途、処理方式、所管基準によって変わります。一つの数値だけを当てはめず、個別の計画条件に合わせて決めます。
給排水計画の抜け漏れを見直すチェックリスト
このリストは、設備設計者が基本計画から実施設計までの検討を整理し、工事監理者が施工前・竣工時に図面、仕様、試験、引継ぎへ反映されているかを見直すためのものです。上水・雑用水・汚水・雨水の用途と系統、水収支、設備構成、誤接続防止、維持管理条件をひと続きで確認できます。
すべての案件に同じ設備を求めるものではありません。計画条件に該当する項目を、所管基準や協議内容と照らしながら使います。
☐ 上水・雑用水・汚水・雨水を、用途と流れで分けた
☐ 「中水」とだけ書かず、原水と利用用途を明記した
☐ 建物用途、規模、特定建築物該当性、自治体条例・要綱を確認した
☐ 下水道の分流式・合流式と、汚水・雨水の放流先を確認した
☐ 日・季節ごとの供給量と使用量で水収支を確認した
☐ 処理設備、水槽、ポンプ、薬注、監視、補給方法を整理した
☐ 点検、清掃、薬品補充、機器更新の動線と作業空間を確保した
☐ 飲料水管と雑用水管を分離し、識別方法を図面・仕様へ記載した
☐ 上水補給に吐水口空間などの逆流防止を設けた
☐ 竣工時・改修時の着色通水試験と記録方法を決めた
☐ 水質検査の項目、頻度、採水場所、異常時停止を管理者へ引き継いだ
まとめ
上水・中水・下水は、きれいさの順に並ぶ三つの等級ではありません。上水は飲用に適する水として供給される水、中水は雨水や再生水を非飲用用途へ使う場合の通称、下水は汚水と雨水を含み得る排除対象の水として捉えると、実務上の違いが見えやすくなります。
雨水や排水を再利用するときは、「中水設備を採用する」と決める前に、原水、用途、水収支、水質、制度を確認します。その後に、処理、貯留、配管、監視、維持管理を組み立てます。
計画初期に設備担当者へ確認したいのは、必要な水槽容量だけではありません。適用される自治体制度、飲料水との分離、点検・清掃・更新の条件まで共有できると、建築・構造・電気の図面にも無理なく反映しやすくなります。
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参考・出典
- 水道法|厚生労働省
- 建築物環境衛生管理基準について|厚生労働省
- 建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則|厚生労働省法令等データベース
- 建築物における維持管理マニュアル 第3章 雑用水の管理|厚生労働省
- 雨水利用・排水再利用設備計画基準(平成28年版)|国土交通省
- 雨水の利用の推進に向けた取組|国土交通省
- 下水道施設の構成と下水の排除方式|国土交通省
- 下水道の仕組み|国土交通省北陸地方整備局
- 水の有効利用のすすめ|東京都都市整備局
- 水の有効利用促進要綱|東京都都市整備局


