温熱6要素とPMV・SET*とは?空調設計に欠かせない快適性指標をわかりやすく解説
空調設備を設計するとき、「室温を何℃にすればいいか」だけで考えていませんか?実は、同じ室温26℃の部屋でも「快適」と感じる人と「暑い」と感じる人がいるのは、温度以外にも快適性を左右する要素があるからです。
この記事では、人の温冷感を決める温熱6要素と、快適性を数値化するPMV・SET*などの温熱環境指標について、空調設計の実務に結びつけながら解説します。意匠設計の経験から設備設計に携わるようになった立場で、「なぜ温度だけでは設計できないのか」という疑問への答えを整理しました。
建築設備士試験で頻出のテーマでもあるので、受験対策としてもお役立てください。
空調設計で「快適さ」を数値化する意味

空調設備の最も基本的な目的は、室内にいる人が快適に過ごせる環境をつくることです。しかし「快適さ」は主観的な感覚であり、同じ部屋にいても暑いと感じる人と寒いと感じる人がいます。
この主観的な感覚を客観的な数値に変換し、設計の判断基準とするために生まれたのが「温熱環境指標」です。温熱環境指標を使うことで、設計者は以下のような判断ができるようになります。
- 設計した空調条件で、何%の人が快適と感じるか予測できる
- 異なる空調方式を同じ尺度で比較できる
- 法令が求める室内環境基準を定量的にクリアできる
まず、快適性を左右する要素を理解するところから始めましょう。
温熱6要素とは — 快適性を左右する6つの因子

人が室内で感じる暑さ・寒さの感覚を「温冷感」と呼びます。この温冷感は室温だけで決まるのではなく、環境側の4要素と人体側の2要素、合計6つの要素に左右されます。これを「温熱6要素」と呼び、すべての温熱環境指標の基礎になっています。
環境側の4要素(気温・湿度・気流・放射)
気温(空気温度)
室内の空気の温度です。快適性に最も直感的に影響する要素で、一般的に夏期は25〜28℃、冬期は18〜22℃程度が快適とされます。ただし気温だけでは快適性は決まりません。「エアコンの設定温度を28℃にしているのに暑い」という経験は、気温以外の要素が影響している典型例です。
湿度(相対湿度)
空気中の水分量です。同じ気温でも、湿度が高いと暑く感じ、低いと寒く感じます。これは人体の発汗による体温調節と深く関わっています。湿度が高い環境では汗が蒸発しにくくなり、気化熱による冷却効果が得られないため、体に熱がこもって不快感が増します。梅雨時の蒸し暑さはまさにこの現象です。
気流(風速)
室内の空気の動きです。夏場に扇風機の風に当たると涼しく感じるように、気流は体表面からの対流熱伝達を促進して体感温度を下げます。一方、冬場に窓際から冷たい空気が足元に流れ込む「コールドドラフト」は、局所的な不快感の代表例です。空調設計では、気流の速度だけでなく方向と温度も重要な検討事項になります。
放射(平均放射温度:MRT)
壁・窓・天井・床など、周囲の表面から受ける熱放射の影響です。室温が同じでも、冬に冷え切った窓ガラスの近くにいると体から熱が奪われて寒く感じ、夏に西日で熱せられた壁の近くにいると暑く感じます。放射は目に見えないため見落としがちですが、気温と同程度に快適性に影響する重要な要素です。
人体側の2要素(代謝量・着衣量)
代謝量(活動量)
人が活動することで体内に発生する熱量です。単位には「met(メット)」が用いられます。椅子に座って安静にしている状態の代謝量が1met(= 58.2 W/m²)と定義されており、標準的な成人の体表面積(約1.7〜1.8m²)を掛けると、1人あたり約100Wの発熱量に相当します。
代謝量は活動の激しさに応じて変化します。軽いデスクワークで1.0〜1.2met、立ち作業で1.4〜1.6met程度です。空調設計では、その空間でどのような活動が行われるかを想定し、代謝量を設定することが重要です。事務室と工場では最適な空調条件が大きく異なるのは、この代謝量の違いが一因です。
着衣量
衣服の断熱性を示す要素で、単位には「clo(クロ)」が用いられます。気温21℃、相対湿度50%、気流0.1m/sの室内で快適と感じる着衣量の熱抵抗値を1cloと定義しており、標準的なスーツ姿がこれに相当します。
| 着衣の状態 | clo値 |
|---|---|
| 裸 | 0 |
| 夏の軽装(半袖・薄手パンツ) | 約0.5 |
| 標準的な事務服 | 約0.6 |
| 標準的なスーツ | 約1.0 |
| 冬の厚着 | 約1.5 |
クールビズの推進が空調設計にも影響を与えるのは、着衣量の変化が快適条件を変えるためです。
温熱環境指標の種類と使い分け

温熱6要素を組み合わせて快適性を総合的に数値化したものが「温熱環境指標」です。代表的な指標とその特徴を整理します。
PMV(予測平均温冷感申告)とPPD
PMV(Predicted Mean Vote) は、デンマーク工科大学のファンガー(P.O. Fanger)教授が1967年に提唱した、最も代表的な温熱環境指標です。温熱6要素のすべてを考慮し、多数の人が感じる温冷感を +3(暑い)から−3(寒い)の7段階 で予測します。
| PMV値 | 温冷感 |
|---|---|
| +3 | 暑い |
| +2 | 暖かい |
| +1 | やや暖かい |
| 0 | どちらでもない(中立) |
| −1 | やや涼しい |
| −2 | 涼しい |
| −3 | 寒い |
PMV = 0 が「暑くも寒くもない中立状態」です。ISO 7730 では、快適域として −0.5 < PMV < +0.5 の範囲を推奨しています。
PPD(Predicted Percentage of Dissatisfied) は、そのPMV値において不満足と感じる人の割合を予測する指標です。PMV = 0の最適状態でもPPDは5%(つまり20人に1人は不満足)とされています。これは人の感じ方の個人差が避けられないことを意味しています。ISO 7730ではPPD < 10% を推奨しています。
なお、ISO 7730は2025年に改訂版が発行されており、最新の規格動向にも注意が必要です。
SET*(標準新有効温度)
SET*(Standard New Effective Temperature) は、温熱6要素をすべて考慮した上で、「℃」という直感的な単位で表される指標です。
ある環境にいる人が同じ発汗状態・温熱感覚になるような「標準環境」の気温に換算した値がSET*です。標準環境とは以下の条件を指します。
- 相対湿度:50%
- 着衣量:0.6clo
- 代謝量:1.0met
- 気流:0.1m/s(静穏気流)
- 平均放射温度=気温
ASHRAE(米国暖房冷凍空調学会)では、SET* = 22.2〜25.6℃ の範囲を、80%以上の人が満足感を覚える快適範囲としています。
SET*はPMVと異なり、発汗を伴うような蒸暑環境の評価にも優れているとされ、PMVの適用が難しい状況の補完指標として用いられます。
不快指数・作用温度・その他の指標
不快指数(DI:Discomfort Index)
気温と湿球温度(または気温と湿度)から算出される指標で、「蒸し暑さ」の度合いを表します。
| 不快指数 | 体感 |
|---|---|
| 75以上 | やや暑い |
| 80以上 | 暑くて汗が出る |
| 85以上 | 暑くてたまらない |
考慮する要素は気温と湿度の2つだけであり、気流・放射・代謝量・着衣量は含まれません。屋外環境の簡易的な蒸暑評価に向いていますが、空調設計の精密な評価には不十分です。
作用温度(OT:Operative Temperature)
気温と平均放射温度を、対流熱伝達率と放射熱伝達率の比率で重み付けした温度です。気流が小さい室内環境では、気温と平均放射温度のほぼ平均値になります。放射暖房(床暖房など)の効果を評価する際に特に有用な指標です。湿度は考慮しない点に注意が必要です。
各指標が考慮する要素の比較
| 指標 | 気温 | 湿度 | 気流 | 放射 | 代謝量 | 着衣量 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| PMV | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| SET* | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 不快指数(DI) | ○ | ○ | × | × | × | × |
| 作用温度(OT) | ○ | × | ○ | ○ | × | × |
| 有効温度(ET) | ○ | ○ | ○ | × | × | × |
この比較表は建築設備士試験でも問われるポイントです。PMVとSET*が温熱6要素すべてを考慮する総合指標であることを押さえておきましょう。
PMVの限界 — 均一環境以外では注意が必要

PMVは空調設計で最も広く使われる指標ですが、万能ではありません。以下の点に注意が必要です。
均一な環境が前提:PMVは室内の温熱環境が均一であることを前提に算出されます。そのため、不均一な放射環境(片側に大きな窓がある場合など)や、上下方向の温度差が大きい環境では、PMVだけでは快適性を適切に評価できない場合があります。
定常状態が前提:PMVは環境が安定した定常状態を想定しています。空調の立ち上がり直後や、外気温が急変する状況では実態との乖離が生じることがあります。
自然換気建物への適用:近年、ASHRAE Standard 55やEN 15251では、自然換気の建物にはPMVではなく「アダプティブ・コンフォート(適応型快適性)モデル」を用いる考え方が広まっています。人は外気温の変化に応じて衣服や行動を調整する適応能力を持っており、自然換気建物ではPMVが示すよりも広い温度範囲で快適と感じることが分かっています。
温熱指標を空調設計に反映するポイント

温熱6要素と各指標を理解した上で、実際の設計にどう反映するかを整理します。
局所的な不快感の解消(上下温度差・放射温度差)
PMVが快適範囲内でも、室内に局所的な温度差があると不快感が生じます。ISO 7730では以下の推奨値が示されています。
上下温度差:椅子に座った状態で、床上0.1m(足元)と1.1m(頭付近)の温度差を3℃以内に収めることが推奨されています。
放射温度の不均一性:冷たい壁・窓に対する放射温度の非対称性は10℃以内、暖かい天井に対しては5℃以内に抑えることが推奨されています。
これらの局所不快は全体の空調制御だけでは解消しにくく、吹出口の配置や窓際の対策など、設計段階での配慮が重要です。
ペリメーターゾーンの対策
窓際のペリメーターゾーンは、冬はコールドドラフトで足元が冷え、夏は日射で暑くなりやすい場所です。ペリメーターゾーンの温熱環境を改善する手法として、窓下への暖房器具の設置や放射冷暖房の採用などがあります。ペリメーターゾーンの設計については、別記事で詳しく解説しています。
建築物衛生法の室内環境基準
建築物衛生法(ビル管理法)に基づく建築物環境衛生管理基準では、空調設備を設けた居室の環境基準が定められています。
| 項目 | 基準値 |
|---|---|
| 温度 | 18℃以上28℃以下 |
| 相対湿度 | 40%以上70%以下 |
| 気流 | 0.5m/s以下 |
注意:温度の下限値は、令和4年(2022年)4月施行の政省令改正により、従来の17℃から18℃に引き上げられています。改正前の基準値を記載している資料も多いため、最新の基準値を確認してください。
なお、建築物衛生法の詳細な基準値やその他の項目については、別記事「室内空気環境の基準と法律」で詳しく解説しています。
建築設備士試験で問われるポイント

温熱6要素と温熱環境指標は、建築設備士試験および一級建築士試験の環境分野で頻出のテーマです。以下のポイントを押さえておきましょう。
温熱6要素の構成:環境側4要素(気温・湿度・気流・放射)と人体側2要素(代謝量・着衣量)。各指標がどの要素を考慮しているかの対応関係が問われます。
代謝量の基準値:椅座安静時の代謝量は58.2 W/m²(= 1met)。標準的な成人の体表面積は約1.7〜1.8m²で、1人あたり約100W/人。
着衣量の基準値:1clo = 標準的なスーツ姿。cloの定義条件(気温21℃、相対湿度50%、気流0.1m/s)も出題されます。
PMVの快適範囲:−0.5 < PMV < +0.5(ISO 7730)。PPD < 10%。PMV = 0でもPPD = 5%。
SET*の快適範囲:22.2〜25.6℃(ASHRAE)。SET*はPMVより蒸暑環境の評価に優れる。
局所不快の基準:上下温度差3℃以内、冷たい壁の放射温度非対称性10℃以内、暖かい天井5℃以内。
FAQ(よくある質問)
PMVとSET*はどう使い分ければよいですか?
一般的な空調設計(オフィス、商業施設など均一な温熱環境)ではPMVが標準的に用いられます。一方、蒸暑環境の評価や、着衣量・代謝量が大きく異なる条件の比較にはSET*が適しています。SET*は℃で表されるため直感的に把握しやすい利点もあります。
不快指数とPMVの違いは何ですか?
不快指数は気温と湿度の2要素のみで算出する簡易指標です。PMVは温熱6要素すべてを考慮する総合指標であり、空調設計にはPMVの方がはるかに適しています。不快指数は主に屋外の蒸暑評価に用いられます。
建築物衛生法の気流基準「0.5m/s以下」は厳しすぎませんか?
0.5m/sは法定の上限基準です。設計実務では0.15〜0.25m/s程度を目標とすることが多く、居住域で0.3m/s以下に抑えることが望ましいとされています。気流が大きすぎるとドラフト(不快な局所気流)の原因になりますが、無風状態も空気のよどみを生むため、適度な気流は必要です。
PMV=0にすれば全員が快適になりますか?
なりません。PMV = 0の理想的な状態でも、統計的にPPD = 5%(約20人に1人)は不満足と感じます。人の温熱感覚には個人差があるため、全員を満足させることは原理的に不可能です。設計では「できるだけ多くの人が快適と感じる環境」を目指します。
まとめ
空調設計における快適性の評価は、室温だけでなく温熱6要素(気温・湿度・気流・放射・代謝量・着衣量)を総合的に判断する必要があります。
- PMVは6要素すべてを考慮した国際標準の温熱指標で、快適域は**−0.5 < PMV < +0.5**(ISO 7730)
- SET*は℃で表される直感的な指標で、快適域は22.2〜25.6℃(ASHRAE)
- 建築物衛生法の室内環境基準は温度18〜28℃、湿度40〜70%、気流0.5m/s以下(令和4年改正反映)
- 全体のPMVが快適でも、局所不快(上下温度差、放射非対称性、コールドドラフト)への配慮が不可欠
設計者は空間の用途、在室者の活動量・着衣量に応じて最適な温湿度設定と機器選定を行い、局所的な不快も含めた総合的な快適性の実現を目指しましょう。
本記事は2026年3月時点の情報に基づきます。法令の数値基準は改正される場合がありますので、設計時には最新の情報をご確認ください。
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