空調設備

温熱6要素とPMV・SET*とは?室温だけでは決まらない快適性を設計実務から解説

室内の人を中心に気温・湿度・気流・放射・着衣・活動を表したイラストと記事タイトル
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空調の打合せでは、「夏の室温は何℃にしますか」という話がよく出てきます。

ところが、同じ室温でも、窓際では暑く感じ、エアコンの風が直接当たる席では寒く感じることがあります。服装や作業内容が違えば、同じ部屋にいる人でも感じ方は変わります。

では、室温だけで説明できない暑さや寒さを、設計ではどのように考えればよいのでしょうか。その手掛かりになるのが「温熱6要素」と、PMV・PPD・SET*などの温熱指標です。

この記事では、設備を学び始めた意匠設計者や若手設計者に向けて、これらの言葉を身近な例から順番に解説します。難しい計算式を覚えることよりも、図面のどこを確認し、設備担当者へどの条件を伝えるかを理解することを目標にします。

同じ室温のオフィスでも窓際の日射と吹出口の気流で暑さ・寒さの感じ方が変わる様子

この記事でわかること

  • 温冷感を決める環境側4要素と人体側2要素
  • PMV・PPD・SET*がそれぞれ何を表すか
  • 法令上の温湿度基準と、快適性評価の違い
  • 外皮、日射、吹出口、運用条件を一緒に考える理由
  • 意匠設計者が設備担当者と共有したい確認項目
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温冷感は室温だけでなく「温熱6要素」で決まる

PMVやSET*を理解する前に、まず「人は何によって暑い、寒いと感じるのか」を整理しましょう。

室温は大切な条件ですが、それだけではありません。空気温度、放射、湿度、気流という環境側の4要素と、活動量、着衣量という人側の2要素が関係します。

日本の実務や学習では、この六つをまとめて「温熱6要素」と呼ぶことが一般的です。ASHRAE Standard 55でも、温熱環境を考える主な要素として、これらの環境要因と個人要因を扱っています。

温冷感を決める環境側4要素と人体側2要素

環境側の4要素

要素何を表すか建築・設備で見る場所
空気温度人の周囲にある空気の温度室温設定、ゾーン分け、温度分布
湿度汗の蒸発や乾燥感に関係する空気中の水分除湿・加湿、外気処理、結露リスク
気流人の周囲を流れる空気の速さと向き吹出口、吸込口、家具、間仕切り、ドラフト
平均放射温度窓、壁、床、天井など周囲表面との放射熱交換ガラス、断熱、日射遮蔽、床暖房、天井面

例えば、冬の大きな窓の近くでは、室温が適切でも寒く感じることがあります。冷たい窓面へ身体の熱が逃げるためです。

反対に、夏の日射が当たる窓際では、空気が冷えていても暑く感じることがあります。室温計の数字だけでなく、窓や壁などの表面から受ける熱も確認する必要があります。

人体側の2要素

代謝量metと着衣量cloの違いを活動と服装の例で比較

人の側の条件も、建物の使われ方によって変わります。座って仕事をする事務室と、身体を動かすフィットネス施設では、同じ室温でも感じ方は同じになりません。

代謝量は一般にmet、着衣量はcloという単位で表します。名前や数値を覚える前に、「どのような動き方と服装を想定した値か」を確認することが大切です。

用途名だけで条件を決めず、誰が、どのような服装で、どの程度身体を動かす空間なのかを設備担当者と共有します。

温熱指標全体の違いを先に整理したい方へ

不快指数、作用温度、有効温度、PMV・PPD、SET*は、名前が似ているため最初は違いが分かりにくいところです。

まず温熱指標全体の役割を知りたい方は、次の記事から読むと整理しやすくなります。本記事では、その中からPMV・PPD・SET*を取り上げ、実務での使い方をもう一段詳しく解説します。

基礎から整理
温熱6要素と温熱指標の種類|不快指数・作用温度・PMV・SET*の違いを整理
温熱6要素と温熱指標の種類|不快指数・作用温度・PMV・SET*の違いを整理

PMVとPPDは「多数の人の平均」を予測する指標

同じ会議室にいても、「少し暑い」と感じる人もいれば、「ちょうどよい」と感じる人もいます。一人ひとりの感覚を完全に一致させることはできません。

そこで、多くの人が平均として暑い側に感じるか、寒い側に感じるかを予測するのがPMVです。PMVはPredicted Mean Voteの略で、温熱6要素を入力して求めます。

尺度の中央は、暑くも寒くもない中立の状態です。そこから寒い側、暑い側へ、平均的な感じ方を段階的に表します。

PPDはPredicted Percentage of Dissatisfiedの略で、その環境を不満に感じる人がどの程度いると予測されるかを表します。

ここで覚えておきたいのは、PMVが中立に近くても、全員が快適になるわけではないことです。PMVとPPDは、特定の一人の感覚を当てるものではなく、多くの人の平均的な傾向を考えるために使います。

PMVと予測不満足者率PPDの概念的な関係

ISO 7730:2025では、PMV・PPDと、身体の一部で感じる局所的な不快を使って、中程度の温熱環境を評価する方法を定めています。

ただし、PMVの数字だけを見て、室内環境の合否を決めることはできません。どの規格を使い、どの場所と時間帯を対象に、どの条件を入力したのかを一緒に確認します。

PMVを使うときに必要な入力

☐ 空気温度をどの位置・時間帯で評価するか
☐ 平均放射温度をどう想定・算定するか
☐ 相対湿度の設計条件
☐ 気流速度と吹出し条件
☐ 利用者の活動量
☐ 利用者の着衣量

計算結果を保存するときは、入力した条件と、その条件を決めた理由も一緒に残します。

特に着衣量と活動量は、図面を見ても分かりません。建築主や運営者に、実際の服装や使い方を確認してから設定します。

SET*は異なる環境を「標準環境の温度」に置き換えて比べる

PMVが「多くの人の平均的な感じ方」を表すのに対して、SET*は、条件の違う空間で受ける暑さや寒さを温度として比べるための指標です。

例えば、室温は同じでも、風が弱い部屋と、扇風機やシーリングファンの風がある部屋では、身体から逃げる熱が変わります。その違いを、基準となる環境では何℃に相当するかという形で表すのがSET*です。

同じ室温でも気流の有無によって体感が変わる二つの室内

SET*はStandard Effective Temperatureの略です。数値には温度の単位が付きますが、室温計で測った温度ではありません。

計算には、温熱6要素と、比較の基準にする環境条件が関係します。計算ツールや規格の版、入力した条件を確認し、「SET*が何℃だから、室温も同じ何℃にする」と読み替えないようにします。

PMV・PPD・SET*の使い分け

指標主に分かること読み方の注意
PMV多数の人の平均的な温冷感個人の感覚や局所不快を直接表すものではない
PPD不満足と予測される人の割合PMVが中立でもゼロにはならない
SET*異なる条件を標準環境の温度として比較した体感実際の室温ではなく、計算条件の確認が必要
作用温度空気温度と放射の影響をまとめた体感の手掛かり気流や人体条件等を別途考える必要がある

自然換気を活かす建物では適応モデルも確認する

窓を開けられる建物では、利用者が風を入れたり、服装を変えたりして、自分で環境を調整できることがあります。外の気温に少しずつ慣れることも、感じ方に影響します。

このような人の行動や慣れを考慮するのが「適応モデル」です。ASHRAE Standard 55では、一般的な評価方法とは別に、条件を満たす自然換気の建物などで使う適応方式を扱っています。

PMVだけをすべての建物へ同じように使うのではなく、空調方式、窓を操作できるか、利用者が環境を調整できるかを確認して、評価方法を選びます。

PMVが良くても「局所不快」は残る

PMVが中立に近いのに、窓際の席だけ寒い、吹出口の下だけ風が強いということがあります。

PMVは室内の平均的な温冷感を整理するのに役立ちますが、身体の一部だけが不快になる状態までは、一つの数字で表し切れません。こうした不快を「局所不快」と呼びます。

窓面放射、ドラフト、上下温度差、床表面温度という局所不快の確認場所

主に確認したいのは、次のような場所です。

  • 冷たい窓や熱い窓から受ける放射の偏り
  • 吹出口や窓際から身体へ当たり続ける気流
  • 頭部と足元の温度差
  • 足裏が接する床表面の温度

許容値は、姿勢、活動、用途、評価区分、採用する規格によって変わります。

そのため、図面では平均室温だけを確認するのではなく、人が過ごす位置を基準に、窓、吹出口、床との関係を見ます。

法令上の温湿度基準と「快適」は同じ意味ではない

温熱環境を調べていると、法令に示された温度や湿度の数字も出てきます。ここで注意したいのは、法令の範囲に入っていることと、すべての人が快適に感じることは同じではないという点です。

建築物衛生法の対象となる特定建築物で、空気調和設備を設けている場合、厚生労働省は居室の空気環境について、温度18~28℃、相対湿度40~70%、気流0.5m/s以下などの基準を示しています。温度の下限は、2022年4月から18℃へ改正されています。

これらは、対象となる建築物を衛生的に維持管理するための基準です。温度が範囲内でも、窓際だけ暑い、足元だけ寒い、風が身体に当たり続けるといった不快は起こります。

法令に適合しているかの確認と、利用者が快適に過ごせるかの確認は、目的を分けて行いましょう。

設計実務では、まず人が過ごす場所から確認する

PMVやSET*を計算する前に、「誰が、どこで、どのように過ごす部屋なのか」を整理します。

そのうえで、窓や日射、空調の吹出口、完成後の使い方を順番に確認すると、計算結果を図面へ反映しやすくなります。

快適性を設計へ落とし込む5段階の確認フロー

1. 空間の使われ方を決める

在室人数、活動、服装、滞在時間、席が固定か自由かを整理します。

同じ事務所でも、受付、執務、会議、休憩では、人の数や身体の動かし方が違います。まず、どの場所を主な評価対象にするかを決めます。

2. 外皮と日射条件を確認する

方位、ガラス性能、庇、ブラインド、断熱、熱橋を確認します。

窓際の暑さや寒さは、空調能力を増やすだけでは解決しないことがあります。まず、日射を遮れるか、窓の表面温度を改善できるかを建築側でも検討します。

3. 空調ゾーンと気流を計画する

窓際と室内の中央部を同じ空調で制御するか、吹出口をどこに置くか、家具や間仕切りで風が遮られないかを確認します。

天井伏図では、照明や感知器との割付だけでなく、机、ベッド、受付など、人が長く過ごす位置へ風が直接当たらないかも見ます。

4. 指標と局所不快を確認する

必要に応じてPMV・PPD・SET*を計算します。ただし、計算結果だけで終わらせません。

吹出し風によるドラフト、窓から受ける放射、頭と足元の温度差、床表面温度も確認します。許容値は、採用する規格と用途条件を確認し、設備担当者と決めます。

5. 運用後に測定・申告を確認する

完成時の設定値だけで終わらせず、実際の室温や気流と、利用者から寄せられた暑い・寒いという声を照らし合わせます。

設定温度、風量、運転時間、ブラインドの使い方など、建物を使い始めてから調整できる項目もあります。

意匠設計者が設備担当者へ渡したい情報

☐ 室の用途、在室人数、利用時間
☐ 主な活動と服装
☐ 席・ベッド・作業位置
☐ 窓の方位、ガラス、庇、ブラインド計画
☐ 天井高さ、下がり天井、梁、間仕切り
☐ 吹出口の意匠条件と避けたい位置
☐ 個別調整の要否
☐ 温熱環境に関する発注者要求
☐ 竣工後の測定・調整・説明の範囲

建築設備士試験との関係

建築設備士試験の学習では、温熱6要素、PMV・PPD、作用温度、met・cloなどの用語を、単独暗記ではなく関係図で整理すると理解しやすくなります。

特に次の区別が重要です。

  • 空気温度と平均放射温度は別の要素
  • PMVは平均的な温冷感、PPDは不満足者率
  • 法令上の空気環境基準と快適性評価は目的が異なる
  • 規格や法令の数値は、対象と確認時点をセットで覚える

よくある質問

室温を決めれば快適性も決まりますか?

室温だけでは、窓や壁から受ける熱、身体に当たる風、湿度、服装、活動量が分かりません。まず、温熱6要素のうち、どの条件が影響しているかを確認します。

PMVが0なら全員が満足しますか?

PMVは、多くの人の平均的な感じ方を予測する指標です。PMVが中立でも、全員が満足するわけではありません。窓際や吹出口付近の状態に加え、利用者が自分で温度や風を調整できるかも確認します。

法定範囲に入っていれば快適ですか?

法令基準は、対象となる建築物を衛生的に維持管理するためのものです。快適性を確かめるときは、窓際の放射や吹出し風なども別に確認します。また、建築物衛生法の基準を使う前に、対象建築物と設備条件に当てはまるかを確認します。

計算ソフトの結果だけを保存すればよいですか?

結果の数字だけでは、後で同じ計算をやり直して確かめることができません。採用した規格、計算ツールの版、室温や気流などの入力値、その値を決めた理由を一緒に記録します。

まとめ

温熱環境を考えるときは、室温だけでなく、湿度、気流、放射、活動量、着衣量を含む温熱6要素を確認します。

PMV・PPD・SET*は、複数の条件を整理するための指標です。ただし、一人ひとりの感じ方や、窓際・吹出口付近で起こる不快まで、すべてを一つの数字で表せるわけではありません。

最初から計算方法をすべて覚える必要はありません。まず、人がどこで、どのように過ごすのかを整理し、窓、日射、吹出口との位置関係を図面で確認しましょう。

その条件を設備担当者へ早めに共有しておくと、PMVやSET*の計算結果を、実際の建築計画へ反映しやすくなります。

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参考・出典

法令・規格は改定されます。個別案件では、用途、規模、地域、所管行政庁、発注条件、採用する規格の最新版を確認してください。

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