空調設備

空気の加熱・冷却プロセスとは?空調機内の状態変化を空気線図で理解する

setsubi

空調図面を見ていると、AHU(エアハンドリングユニット)に「加熱コイル」「冷却コイル」と書いてある。記号はわかる。でも、そのコイルを空気が通過するとき、内部で何が起きているのかは意外と見えにくい。

この記事では、空調機の中で起きている空気の「加熱」と「冷却」のプロセスを、湿り空気線図の動きと熱量計算の基本式を使ってわかりやすく解説します。

この記事でわかること

  • 空気を加熱したとき、空気線図上でどう動くか(温度・湿度の変化)
  • 空気を冷却するときの「顕熱冷却」と「冷却除湿」の違い
  • 加熱・冷却に必要な熱量の計算方法(エンタルピー差を使った計算式)
  • 冷房時・暖房時の空調サイクル全体の流れ

湿り空気線図(以下、空気線図)の読み方そのものは、別記事「湿り空気線図の基礎と読み方」で詳しく解説しています。
この記事では空気線図の基本的な読み方はすでに理解している前提で、「加熱」「冷却」という具体的な空調プロセスに絞って解説します。

加熱コイルによる「空気の加熱」とは何か

空気線図上の動き:右への水平移動

加熱コイル(温水や蒸気が通っている管)に空気を通すと、空気は暖まります。このとき、空気中の水蒸気の量(絶対湿度)は変化しません。加熱コイルは熱を与えるだけで、水分を足したり引いたりしないためです。

この変化を空気線図に描くと、**「右へ水平に移動」**します。縦軸(絶対湿度)は変わらず、横軸(乾球温度)だけが上がります。温度変化だけが起きるこの変化を「顕熱変化」と呼びます。

相対湿度は下がる

温度が上がると、空気が含むことのできる最大の水蒸気量(飽和水蒸気量)が増えます。絶対湿度は変わっていないのに「限界値」だけが大きくなるため、相対湿度(%)は低下します。

たとえば、17℃・相対湿度47%の空気を30℃まで加熱すると、絶対湿度は変わらないまま相対湿度は約21%まで下がります。これが冬の室内が乾燥する仕組みです。暖房時に加湿器が必要なのは、このためです。

加熱による変化のまとめ

変化する量変化の方向
乾球温度上昇
絶対湿度変化なし
相対湿度低下
エンタルピー増加

冷却コイルによる「空気の冷却」は2種類ある

冷却の場合、加熱とは違って2つのパターンがあります。境界になるのは「露点温度」です。

露点温度とは何か

空気をゆっくり冷やしていくと、ある温度で空気中の水蒸気が結露し始めます。この温度を露点温度と呼びます。冷却コイルの表面温度が、通過する空気の露点温度より高いか低いかで、空気の変化がまったく異なります。

① 顕熱冷却(露点温度より高い温度での冷却)

コイルの表面温度が空気の露点温度より高い場合、結露は発生しません。水蒸気量(絶対湿度)は変わらず、温度だけが下がります。空気線図上では**「左へ水平に移動」**します。加熱の逆向きです。

この変化は顕熱変化(顕熱冷却)と呼ばれます。日常的な冷房で発生することは少なく、精密空調や前冷却など限られた用途で使われる変化です。

② 冷却除湿(露点温度より低い温度での冷却)

実際の建物の冷房では、ほとんどがこのパターンです。冷却コイルの表面温度が空気の露点温度より低い場合、空気がコイルに触れると結露が発生し、水蒸気が液体となってドレン水として排出されます。

これにより、温度が下がると同時に絶対湿度も低下します。空気線図上では相対湿度100%の曲線(飽和線)に向かって**「左下へ斜めに移動」**します。この変化が「冷却除湿(冷却減湿)」です。

空調機から排出されるドレン水の正体は、この冷却除湿で凝縮した水分です。

2種類の冷却の違い

顕熱冷却冷却除湿
コイル表面温度露点温度より高い露点温度より低い
絶対湿度変化なし低下する
空気線図上の動き左への水平移動左下への斜め移動
ドレン水発生しない発生する
主な用途前冷却・精密空調一般冷房(夏期冷房)

加熱・冷却に必要な熱量の計算方法

コイルが空気に与える(または奪う)熱量は、エンタルピー差を使って計算します。

エンタルピーとは

エンタルピーは、湿り空気が持つ全熱量(温度に由来する顕熱+水蒸気に由来する潜熱)を示す数値です。空気線図上で読み取ることができ、単位はkJ/kg(乾き空気1kgあたりのエネルギー量)です。

加熱・冷却のどちらも「処理前後のエンタルピーの差」がコイルの処理熱量になります。

基本計算式

q=Q×1.2×Δh3600[kW]q = \frac{Q \times 1.2 \times \Delta h}{3600} \quad \text{[kW]}q=3600Q×1.2×Δh​[kW]

各記号の意味:

  • qqq:必要な処理熱量 [kW]
  • QQQ:風量 [m³/h]
  • 1.21.21.2:空気の密度の概算値 [kg/m³]
  • Δh\Delta hΔh:処理前後のエンタルピーの差 [kJ/kg]
  • 360036003600:時間換算(1時間 = 3600秒)

計算例:加熱コイルの処理熱量

条件

  • 風量:3,000 m³/h
  • 加熱前の空気:乾球温度10℃・相対湿度50%(エンタルピー約19 kJ/kg)
  • 加熱後の空気:乾球温度25℃・相対湿度20%(エンタルピー約34 kJ/kg)

計算Δh=3419=15 kJ/kg\Delta h = 34 – 19 = 15 \text{ kJ/kg}Δh=34−19=15 kJ/kg q=3000×1.2×15360015 kWq = \frac{3000 \times 1.2 \times 15}{3600} \approx 15 \text{ kW}q=36003000×1.2×15​≈15 kW

この空調機の加熱コイルには約15kWの加熱能力が必要ということになります。

冷却除湿の場合

冷却除湿では、温度を下げるための顕熱分と水蒸気を凝縮させるための潜熱分の合計をコイルが処理します。計算式の形は同じですが、エンタルピー差には顕熱と潜熱の両方が含まれています。

つまり同じ温度差でも、冷却除湿(湿度も下がる)の方が顕熱冷却(湿度が変わらない)よりもエンタルピー差が大きくなり、コイルに必要な処理熱量も多くなります。

空調システム全体での空気の流れ

実際の建物では、加熱・冷却に加えて「外気との混合」「加湿」「室内での熱の授受」が組み合わさって1つのサイクルを形成します。

冷房時の流れ

  1. 混合:室内からの還気と新鮮な外気を混合します。空気線図上では還気と外気の状態点を結ぶ線上の点(混合点)に移動します。混合比の計算については「空気の混合状態の計算」で詳しく解説しています。
  2. 冷却除湿:混合空気を冷却コイルで処理します。空気線図上を左下へ移動し、露点温度以下まで冷やすことで温度と湿度を同時に下げます。
  3. 送風・室内:冷やされた空気が室内へ供給され、人体・照明・OA機器などの発熱(冷房負荷)を吸収しながら還気の状態に戻ります。

暖房時の流れ

  1. 混合:還気と外気を混合します。
  2. 加熱:加熱コイルで空気を暖めます(空気線図上を右へ水平移動)。
  3. 加湿:暖めて乾燥した空気に水蒸気を加えます(空気線図上を上方向に移動)。加湿のプロセスについては「空気の加湿と除湿プロセス」で詳しく解説しています。
  4. 送風・室内:暖かく湿った空気が室内へ供給され、窓や壁から逃げる熱(暖房負荷)を補います。

設計上の実務ポイント

  • エンタルピーの読み取り:計算式のΔh\Delta hΔhは空気線図から読み取ります。設計段階では空気線図ソフトや計算ツールを使って正確な値を得ることが重要です。
  • 冷却コイルの選定:冷房時のエンタルピー差は加熱コイルよりも大きくなることが多く、コイルの処理熱量を過小評価しないよう注意が必要です。
  • 意匠設計への影響:処理熱量が大きいほど冷温水配管径・ポンプ動力・機械室面積が大きくなります。空調方式の選定が建築断面や設備スペースの確保に直接影響します。

建築設備士試験の出題ポイント

  • 空気を加熱したときの空気線図上の動き(右への水平移動・絶対湿度一定)
  • 顕熱冷却と冷却除湿の違い(露点温度による分岐)
  • エンタルピー差による熱量計算式(q=Q×1.2×Δh/3600q = Q \times 1.2 \times \Delta h / 3600q=Q×1.2×Δh/3600)
  • 冷却除湿がドレン水を発生させる理由(飽和線を越えた水分の凝縮)

よくある質問(FAQ)

Q. 加熱すると乾燥するのはなぜですか?

絶対湿度(空気中の水分量)は変わらないのに、温度が上がると飽和水蒸気量(空気が保持できる最大水分量)が増えるためです。相対湿度 = 絶対湿度 ÷ 飽和水蒸気量 × 100 なので、分母だけが大きくなり相対湿度は下がります。冬の暖房時に室内が乾燥するのも同じ原理です。

Q. 冷却コイルの通過後、空気の相対湿度は何%になりますか?

冷却除湿プロセスでは、冷却コイル出口の空気は飽和線(相対湿度100%)に向かって変化します。実際の設計では出口の相対湿度を90〜95%程度として扱うことが一般的です。完全に飽和させることは難しいため、ADP(装置露点温度)とバイパスファクタを使って設計します(詳細は別記事で解説しています)。

Q. 顕熱変化と潜熱変化の違いは何ですか?

顕熱変化は温度だけが変化する変化(加熱・顕熱冷却)で、絶対湿度は一定です。潜熱変化は水蒸気量が変化する(凝縮や蒸発を伴う)変化で、冷却除湿がこれにあたります。実際には顕熱と潜熱が同時に変化する冷却除湿がほとんどです。

Q. 冷却コイルと加熱コイルは別々に設置されるのですか?

はい、一般的なAHUでは冷却コイルと加熱コイルは別々に設置されます。冷却コイル(冷水コイル)が上流側、加熱コイル(温水コイル)が下流側に配置されることが多く、冬の暖房時には冷却コイルをバイパスして(または通水しないで)加熱コイルだけを使います。

Q. ドレン水はどのくらい発生しますか?

除湿量は処理前後の絶対湿度の差と風量・空気密度の積で計算できます。たとえば夏の外気を導入する空調機では、除湿量が多くなるためドレン配管の容量設計が重要です。

まとめ

空調機の「加熱」「冷却」プロセスを整理すると、次のようになります。

  • 加熱:絶対湿度一定のまま温度が上昇(空気線図上を右へ水平移動)。相対湿度は低下する
  • 顕熱冷却:絶対湿度一定のまま温度が低下(空気線図上を左へ水平移動)。コイル面温度が露点温度より高いときに起こる
  • 冷却除湿:温度が下がりながら絶対湿度も低下(空気線図上を左下へ斜め移動)。実際の冷房で最もよく使われるプロセス

そして、処理熱量は「風量 × 空気密度 × エンタルピー差」から計算できます。このエンタルピー差という考え方が、コイルの能力選定や熱源容量の計算の基礎になっています。

意匠設計の観点では、冷却除湿で処理すべき熱量(全熱)がコイル・熱源・配管のサイズに直接影響します。建物の窓の面積や外皮性能を変えると外気負荷が変わり、それがシステム全体の規模感に跳ね返ってきます。


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本記事は2025年時点の情報に基づいています。

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