加湿と除湿のしくみ|蒸気式・気化式と冷却除湿を空気線図で読む
空調機の仕様書に「蒸気加湿」「気化式加湿」「冷却除湿」と並んでいると、どれも湿度を変える機器なのに、空気線図上の動きが違って見えます。加湿量の欄だけを比べても、方式を選べないので迷いやすいところです。
最初に見るのは、空気へ水蒸気を加えるのか、空気中の水蒸気を水滴にして取り除くのかです。この記事では、水分の出入り、空気線図上の動き、必要加湿量の計算、給水・排水・制御・清掃の順に説明します。読み終えると、空調計算書と機器仕様書を見比べて、必要容量だけでなく、方式ごとに図面へ記載すべき設備を確認できます。
加湿は水蒸気を加え、除湿は水蒸気を取り除く
加湿と除湿を見分けるときは、相対湿度の数字だけを追わず、絶対湿度を見ます。ここでいう絶対湿度は、乾き空気1 kgと一緒に運ばれる水蒸気の質量です。湿り空気線図では kg/kg(DA) または g/kg(DA) で表します。
空気へ水蒸気を加えると絶対湿度は増えます。反対に、冷却コイルで水蒸気を凝縮させ、ドレンとして排出すると絶対湿度は減ります。相対湿度は温度でも変わるため、方式や容量を決める計算では、入口と出口の絶対湿度を比べるのが先です。
| 処理 | 水分の出入り | 乾球温度の代表的な変化 | 空気線図の簡略表示 |
|---|---|---|---|
| 蒸気加湿 | 水蒸気を加える | ほぼ一定 | ほぼ上向き |
| 気化式・水噴霧式加湿 | 液体の水を蒸発させる | 低下する | 左上へ移動 |
| 冷却除湿 | 水蒸気を凝縮水として取り除く | 低下する | 左下へ移動 |
| 再熱 | 水分を変えずに熱を加える | 上昇する | 右へ移動 |
表の移動方向は、標準大気圧付近で状態変化をつかむための簡略表示です。実機の出口は、給水温度、加湿効率、コイルの装置露点温度、バイパスファクタ、制御条件で変わります。

蒸気式・気化式・水噴霧式では水の渡し方が違う
加湿器を選ぶときは、最初から製品名を比べる必要はありません。まず、水を蒸気にしてから空気へ渡すのか、空気の中で水を蒸発させるのかを見ます。この違いが、加湿後の温度、必要な熱源、給水、制御、清掃方法につながります。
蒸気式は蒸気を空気へ加える
蒸気式は、水を加熱して蒸気にし、その蒸気をダクトや空調機内の空気へ加えます。すでに気体になった水を加えるため、理想的な気化式のように空気から大きな気化熱を奪いません。
湿り空気線図の簡略作図では、乾球温度をほぼ一定として上向きに動かします。ただし、蒸気の温度と量を含めると出口温度はわずかに変わるため、最終状態は加湿器メーカーの選定計算で確かめます。
設備図では、蒸気発生器の電源または一次蒸気、給水、蒸気ホース・配管、分散管、凝縮水処理、点検スペースを確認します。加湿量だけが合っていても、蒸気がダクト内で吸収されるまでの距離や、下流センサーの位置が不足すると、ダクト内の結露につながります。
気化式は加湿材の水を空気で蒸発させる
気化式は、水を含ませた加湿材へ空気を通し、水を蒸発させます。水が液体から水蒸気へ変わるときに必要な熱を空気から受け取るため、断熱的な理想過程では乾球温度が下がります。
空気線図では、比エンタルピーがほぼ一定となる線に沿って左上へ動く近似を使います。冬の給気温度を確保するには、加湿器の前に置く加熱コイルで、加湿後の温度低下まで見込む必要があります。
図面では、給水、加湿材、余剰水の排水、ドレンパン、点検扉、加湿材を引き出す方向を確認します。空調機断面図へ交換スペースまで記載すると、運用開始後に清掃できない納まりを避けられます。
水噴霧式は微細な水滴を空気中で蒸発させる
水噴霧式は、ノズルなどで微細な水滴を空気へ直接噴霧します。水滴が十分に蒸発する範囲では、気化式と同じく空気から熱を受け取り、乾球温度が下がる方向へ動きます。
水滴が蒸発しきらないまま下流へ運ばれないように、噴霧圧力、粒径、滞留距離、風速、エリミネータ、下流湿度センサーを候補機器の仕様書で確認します。給水水質とノズル閉塞の点検方法も、製品を選ぶ前に施設管理者へ伝えておく項目です。
冷却除湿は露点温度より低い面で水蒸気を水滴にする
夏の空調機でドレンパンに水がたまるのは、冷却コイルの表面が入口空気の露点温度を下回っているためです。露点温度は、その空気を冷やしていったときに結露が始まる温度です。
入口空気がコイル表面へ触れると、最初は温度が下がります。さらに露点温度を下回ると、水蒸気がフィン表面で凝縮し、ドレンパンへ落ちます。空気は温度と絶対湿度の両方が低くなるため、空気線図では左下へ動きます。
冷却後の給気温度が室内条件に対して低すぎる場合は、水分を増やさずに再熱コイルで温度だけを上げます。空気線図では、冷却除湿で左下へ動いた後、絶対湿度一定のまま右へ動きます。再熱が必要かどうかは、室内の顕熱負荷、必要給気温度、湿度目標を同時に見て決めます。
冷却除湿の計算とコイル能力の具体例は、空気の加熱・冷却プロセスとは?空調機内の状態変化を空気線図で理解するで詳しく説明しています。
必要加湿量は風量と絶対湿度差から概算する
空調機へ必要な加湿量は、加湿前後の絶対湿度差と、通過する乾き空気の量から求めます。基本の水分収支は次の形です。
必要加湿量 [kg/h] = 乾き空気質量流量 [kg(DA)/h] ×(加湿後絶対湿度 - 加湿前絶対湿度)[kg/kg(DA)]
基本計画で空気密度を1.2 kg/m³と置く簡略式では、風量6,000 m³/h、加湿前0.004 kg/kg(DA)、加湿後0.007 kg/kg(DA)なら、次のように計算できます。
1.2 × 6,000 ×(0.007 - 0.004)= 21.6 kg/h
21.6 kg/hは、空気へ実際に移す水分量の概算です。加湿器の定格をそのまま21.6 kg/hに決めるのではありません。候補機器の仕様書で加湿効率、メーカー指定の安全率、入口温湿度、風量範囲、吸収距離を確認し、室内発湿や漏気も含めた負荷計算へ更新します。
最終計算では、空気密度1.2 kg/m³を固定せず、混合空気の比容積から乾き空気質量流量を求めます。高地や特殊な温湿度条件では空気密度が変わるためです。
加湿器は容量だけでなく給水・熱源・制御・清掃で選ぶ
加湿量を計算した後は、負荷計算 → 方式選定 → 機器選定 → 図面記載 → 維持管理確認の順で進めます。どれか一つの資料だけでは決められません。

- 空調負荷計算書で、冬期外気条件、室内目標、外気量、室内発湿、漏気を確認する。
- 湿り空気線図で、混合空気、加熱後、加湿後の状態点と温度低下を確認する。
- 加湿器仕様書で、定格加湿量、使用水質、消費電力または蒸気条件、加湿効率、吸収距離、制御範囲を比べる。
- 空調機仕様書と制御図へ、加湿器位置、加熱コイルとの順序、湿度センサー、過加湿防止、送風機とのインターロックを記載する。
- 平面図と断面図へ、給水、排水、蒸気配管、トラップ、点検扉、部品交換経路を記載する。
| 確認項目 | 蒸気式 | 気化式・水噴霧式 |
|---|---|---|
| 主なエネルギー | 蒸気発生用の電力または一次蒸気 | 空気から気化熱を受ける。給水ポンプや制御電力は製品による |
| 加湿後の温度 | 簡略作図ではほぼ一定 | 理想的な気化過程では低下する |
| 給水・排水 | 給水、ブロー・凝縮水処理を製品仕様で確認 | 給水、余剰水・停止時排水、ドレンパンを確認 |
| 制御 | 湿度センサー、過加湿防止、蒸気発生器との連動 | 湿度センサー、風量範囲、噴霧・給水停止、未蒸発水対策 |
| 維持管理 | 蒸気シリンダ・ヒータ・蒸気経路のスケールを確認 | 加湿材・ノズル・給水経路・エリミネータの汚れと閉塞を確認 |
表は方式選定を始めるための比較です。実際の電力、水質、排水量、制御性能は製品ごとに違うため、同じ設計条件を候補メーカーへ渡して選定表を取り寄せます。
特定建築物では湿度基準と加湿装置の衛生管理を確認する
建築物衛生法の対象となる特定建築物で空気調和設備を設ける場合、厚生労働省の建築物環境衛生管理基準では、居室の相対湿度を40%以上70%以下へおおむね適合させることが示されています。この範囲を、すべての建物・部屋へ同じ設計値として当てはめるのではありません。建物用途、法の適用、室用途、結露条件、契約条件を確認し、室内目標を決めます。
同じ基準では、加湿装置へ供給する水を水道法第4条の水質基準へ適合させるための措置が必要です。加湿装置は、使用開始時と使用期間中1か月以内ごとに1回、汚れを点検し、必要に応じて清掃します。さらに、1年以内ごとに1回の清掃が定められています。
設計段階では、点検頻度を書く前に、保守員がノズル、加湿材、エリミネータ、水経路、蒸気経路、ドレンパンへ手を届かせられるかを空調機断面図で確認します。法の適用と記録方法は、施設管理者と所管保健所へ確認します。
加湿・除湿設備で間違えやすいポイント
空調機の基本設計、機器選定、改修設計では、湿度の数字だけを見て方式を決めると、温度条件や維持管理が後から不足しやすくなります。次の場面では、計算書と機器図を一緒に開いて確認します。
暖房後の相対湿度だけで加湿量を決める場面
冬期の空調負荷計算で、外気と還気の混合空気を加熱した後に、室内目標までの加湿量を求める場面を考えます。計算表に相対湿度だけが並んでいると、水分量の差と取り違えやすくなります。
よくある間違い 空調設計で加熱前後の相対湿度差を、そのまま不足水分量として扱い、加湿器容量を決めることです。加熱コイルで水分を加減していなければ、絶対湿度は変わりません。
確認すべきこと 空調負荷計算書と湿り空気線図で、混合空気と目標給気の絶対湿度差を確認します。外気量、室内発湿、漏気を加えた水分収支から必要加湿量を求めます。
気化式を選び、加湿後の温度低下を見ない場面
空調機の機器選定で、計算した必要加湿量を満たす気化式加湿器を候補にし、加熱コイル能力を決める場面です。加湿器と加熱コイルを別々の選定表で見ると、両方の状態点がつながらないことがあります。
よくある間違い 空調機の選定で加湿量だけを満たせば、加湿前の加熱温度も決まると判断することです。気化式では、水の蒸発に必要な熱を空気から受け取るため、加湿後の乾球温度が下がります。
確認すべきこと 湿り空気線図へ加熱後点と加湿後点を置き、必要な給気温度へ届くかを確認します。届かない場合は、加熱コイル出口温度、加湿器位置、加熱能力を再計算します。
加湿器本体は納まるが、部品を交換できない場面
実施設計で、空調機を梁、配管、ダクト、搬入通路の間へ配置し、機械室の平面図と断面図を確定する場面です。本体外形が納まっても、保守作業のために横や上へ部品を引き出す空間が必要です。
よくある間違い 実施設計で空調機の外形寸法だけを平面図へ記載して納まりを完了と判断し、加湿材や蒸気シリンダの引き出し方向を残さないことです。
確認すべきこと メーカー承認図の点検扉、引出寸法、給水弁、排水口、制御盤位置を平面図・断面図と重ねます。保守員の立ち位置と搬出経路を確保してから、機械室寸法と点検扉位置を決めます。
冷却コイルへ通せば必ず除湿できると考える場面
既設空調機の改修設計で、冷却コイルを再利用しながら室内の除湿能力を増やせるか検討する場面です。冷水が流れていることだけでは、コイル表面で凝縮が起きるかどうかは分かりません。
よくある間違い 改修設計で冷却コイルを設けただけで、入口空気の絶対湿度が下がり、必要な除湿量を得られると判断することです。コイル表面が入口空気の露点温度より高ければ、顕熱冷却だけで水滴は生じません。
確認すべきこと 入口温湿度から露点温度を求め、メーカー選定表の出口絶対湿度、装置露点温度、凝縮水量を確認します。その結果から、冷却能力とドレン排水条件を決めます。
基本設計から実施設計へ進むための確認リスト
このリストは、空調設計者が加湿・除湿機器の方式を選び、空調機仕様書と図面へ反映するときに使います。同じ目的の確認を一つのカードへまとめています。
☐ 室内目標、冬期外気条件、外気量、室内発湿、漏気を空調負荷計算書で確認した
☐ 混合空気、加熱後、加湿後、冷却コイル出口の状態点を湿り空気線図へ置いた
☐ 必要加湿量を絶対湿度差から計算し、候補機器の加湿効率と安全率で更新した
☐ 蒸気式・気化式・水噴霧式の熱源、給水水質、排水、制御、清掃方法を比較した
☐ 加湿器下流の湿度センサーと過加湿防止、送風機停止時のインターロックを制御図へ記載した
☐ 給水、排水、蒸気配管、トラップ、点検扉を平面図・断面図へ記載した
☐ 加湿材、ノズル、蒸気シリンダ、エリミネータを清掃・交換できるスペースを確保した
☐ 冷却コイル入口の露点温度、出口絶対湿度、凝縮水量をメーカー選定表で確認した
☐ 建築物衛生法の適用と施設の点検・清掃記録を施設管理者・所管保健所へ確認した
まとめ|絶対湿度を見てから方式と周辺設備を決める
- 蒸気式は蒸気を加え、気化式・水噴霧式は液体の水を空気中で蒸発させます。
- 理想的な気化加湿では乾球温度が下がるため、加湿前の加熱条件まで空気線図で確認します。
- 冷却面が露点温度を下回ると、水蒸気が凝縮し、冷却除湿が始まります。
- 必要加湿量は乾き空気質量流量と絶対湿度差から求め、候補機器の効率、吸収距離、制御条件で更新します。
- 特定建築物では、相対湿度基準、給水水質、点検・清掃の適用条件を確認します。
手元に空調機仕様書があるなら、まず加湿器の定格 kg/h だけでなく、入口温湿度、使用水質、排水口、下流センサー、点検扉を見てみましょう。空調負荷計算書の状態点と同じ条件になっているかを比べると、容量不足だけでなく、温度低下や維持管理スペースの不足も設計中に見つけられます。
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参考・出典
ASHRAE Handbook—Fundamentals 2025, Chapter 1 Psychrometrics
ASHRAE Handbook—HVAC Systems and Equipment 2020, Chapter 22 Humidifiers
ASHRAE Handbook—HVAC Applications 2019, Chapter 48 Design and Application of Controls


