室内発生熱負荷の計算方法|人体・照明・OA機器を顕熱と潜熱に分ける
夏の会議室で空調が効きにくいとき、原因は窓からの日射だけとは限りません。室内にいる人、点灯している照明、机上のPCやモニターも熱を出しています。空調の負荷計算では、こうした室内で発生する熱と水分を「室内発生熱負荷(内部発熱)」として集計します。
室内発生熱負荷は、冷房機器の能力、送風量、除湿量を決めるための入力です。人数や機器の条件を大まかに置くと、会議が集中する時間帯に冷房能力が不足したり、逆に機器を必要以上に大きく選んだりします。この記事では、人体・照明・OA機器をどの資料から拾い、顕熱と潜熱をどう分けるかを、仮定計算例で確認します。
室内発生熱負荷は、部屋の中で増える熱と水分
顕熱は空気の温度を上げる側の熱です。照明が点いて室温が上がる場合や、PCの排気で机の周りが暖かくなる場合がこれに当たります。潜熱は空気中の水蒸気量を増やす側の熱で、空調機が除湿して処理します。
空調する部屋の中では、代表的に次の3つを確認します。
人体は、皮膚からの放射・対流と呼吸などによって、熱と水分を室内へ出します。照明と、PC・モニター・プリンターのような一般的な事務機器は、通常は顕熱として扱います。ただし、加湿機能を持つ機器や、蒸気・開放水面を伴う機器は別です。その場合は、機器から出る水分も潜熱として空調方式に反映します。
人、照明、機器の熱は、空調の熱収支では対流・放射・潜熱に分かれます。放射として出た熱の一部は、床・壁・机に吸収され、時間をおいて室内空気側へ戻ります。このため、ある瞬間に出た熱量と、その瞬間に空調機が除去する冷房負荷は必ずしも同じになりません。時刻別の負荷計算では、採用した計算法や計算ソフトがこの時間差をどう扱うかも確認します。
計算の前に、人数・器具・運用を図面から拾う
用途名だけで「事務室だからこの人数」「会議室だからこの電力密度」と決めることはできません。たとえば同じ100 m²の事務室でも、固定席が10席の執務室、フリーアドレスで30人が集まる執務室、研修で一時的に満席になる部屋では、最大負荷が違います。
人体は座席数と最大在室時刻をそろえる
平面図と家具レイアウトから、座席数と立席を含む最大在室人数を確認します。次に、予約表、勤務形態、会議の時間帯などから、その人数が冷房設計日に同時に在室する時刻を決めます。執務室の在室率を一日中100%にするか、会議室だけ満席の時間を作るかで、系統のピークは変わります。
1人当たりの顕熱・潜熱は、座って作業するのか、立って説明するのか、運動を伴うのか、室温を何℃にするのかで変わります。負荷計算書には、人数だけでなく、採用した活動条件と室内設計条件も残してください。
照明は器具表の「器具一式の入力電力」を見る
照明図で器具の台数と点灯区分を確認し、照明器具表又はメーカー資料から、器具一式の入力電力を拾います。ランプだけのワット数が書かれた古い資料を使う場合は、安定器などを含むかどうかを確認します。現行のLED器具では、器具一式の入力電力が分かるなら、その値で集計するほうが条件をそろえやすくなります。
調光を使う部屋では、最大点灯ではなく、負荷が最大になる時間帯の点灯率を設定します。天井裏が還気経路になっている場合や、器具の熱が空調区画の外へ逃げる構成では、照明の熱が室内へ入る割合も採用計算法に従って確認します。
OA機器は定格値だけで決めない
PC、モニター、プリンター、複合機、ネットワーク機器などは、機器表と実際の使い方を照合します。定格消費電力は、機器が取り得る最大値であり、通常の業務時間に常に消費する値とは限りません。機器の仕様書に運転時消費電力があれば、その値と稼働時間を確認し、必要なら実測値を使います。
特に注意したいのは、サーバーラックや大型複合機です。熱が室内へ戻るのか、ダクトで室外へ排気されるのか、別の室へ移るのかで、その室の空調負荷は変わります。機器の電力だけでなく、排気先と運転時間も設備図・メーカー資料・運用担当者への確認でそろえます。
人体・照明・OA機器の基本式
冷房時の室内発生熱負荷は、顕熱と潜熱を分けて集計します。記号の置き方は計算書やソフトにより異なりますが、基本的な考え方は次のとおりです。
人体は顕熱と潜熱を別々に計算する
Qps=N×qs
Qpl=N×ql
- Qps:人体の顕熱負荷[W]
- Qpl:人体の潜熱負荷[W]
- N:在室率を反映した、設計時刻の在室人数[人]
- qs:1人当たりの顕熱[W/人]
- ql:1人当たりの潜熱[W/人]
人数が同じでも、室温や活動量が変わればqsとqlは変わります。在室率を別に与える計算書では、先に定員へ掛けてNを決めます。すでに設計時刻の人数をNへ入れた場合は、在室率をもう一度掛けません。人体の総発熱を一つの値で足すだけでは、除湿に必要な能力を確認できないため、冷房コイルや除湿方式を検討するときは潜熱の列を残します。
照明は、点灯している器具の入力電力から求める
Ql=Wl
- Ql:照明の顕熱負荷[W]
- Wl:点灯率・使用率を反映して、対象時刻に集計した照明器具一式の入力電力[W]
照明器具の定格入力電力を合計しただけでは、消灯区画や調光を反映できません。設計ピークの時刻に、どの回路が何%点灯しているかを電気設計者と確認し、その結果を反映した値をWlへ入れます。点灯率を反映済みのWlへ、点灯率をもう一度掛けません。
OA機器は、機器ごとに稼働率を掛けて積み上げる
Qe=Σ(Wi×fi)
- Qe:OA機器の顕熱負荷[W]
- Wi:機器iの負荷計算対象時間における消費電力[W]
- fi:機器iの同時稼働率[-]
同じ型式のPCでも、全台が同時に高負荷で動くとは限りません。一方で、常時稼働のネットワーク機器を、PCと同じ稼働率にするのも不適切です。機器群ごとに、使用時間と負荷の性質を分けて入力します。
仮定計算例|100 m²の事務室を集計する
ここでは計算の流れだけを確認するため、次の条件を仮定します。1人当たりの発熱量、照明電力、OA機器電力は、特定の用途や製品の標準値ではありません。実案件では、設計条件と現行の器具・機器資料へ置き換えてください。
人体の顕熱は、Qps=12×55=660 W、人体の潜熱は、Qpl=12×65=780 Wです。照明とOA機器は、この例では顕熱として扱います。
したがって、室内発生による顕熱の合計は、Qs=660+800+1,200=2,660 W、潜熱の合計は人体分の780 Wです。総発生熱量は、Qt=2,660+780=3,440 W=3.44 kWになります。
この3.44 kWだけで空調機の能力を決めるわけではありません。窓・外壁・屋根からの熱、外気導入、隙間風、ダクトやファンの熱などと、同じ設計日・同じ時刻の条件で合わせます。室内顕熱2.66 kWは送風量や室温制御に、潜熱0.78 kWは除湿とコイル能力に関わるため、合計値だけでなく内訳を計算書へ残すことが大切です。
冷房で見落としやすい3つの条件
同じ時刻に発生するかを確認する
人体、照明、OA機器をそれぞれの最大値で足すと、実際には同時に起こらないピークまで重ねてしまうことがあります。逆に、午後の大人数会議で照明・モニター・PCが一斉に稼働する場合は、同時使用を小さく見積もると不足します。会議予約、勤務形態、照明制御、機器の運転スケジュールを同じ時間軸に並べて確認してください。
放射分の時間遅れを計算法に合わせる
照明や人体の顕熱には放射分が含まれます。室内表面に吸収された熱は、直後にすべて室内空気を温めるわけではありません。手計算で瞬時発熱を使うのか、時刻別の負荷計算法で蓄熱を扱うのかにより結果が変わります。別の計算法の係数を混ぜず、採用した設計基準又はソフトの入力定義でそろえます。
排熱が同じ空調区画へ戻るかを確かめる
OA機器の電力がすべてその室の冷房負荷になるとは限りません。たとえばラック背面の排気を別室又は屋外へ直接出す計画では、元の室と排気先の室に入る熱を分ける必要があります。サーバー室のように24時間動く機器がある場合は、在室者がいない時間の顕熱も別途確認します。
暖房のピーク計算では、内部発熱を見込まないことがある
冷房の能力を選ぶときは、人・照明・機器が室内を温めるため、内部発熱を負荷として集計します。一方、設計ピーク暖房負荷では、外気温が低く、朝に人が入る前、照明とPCが停止している条件でも室温を維持・回復できるよう、日射と内部発熱を見込まない定常計算が一般的です。
これは、暖房を使っている間に人や照明の熱が存在しないという意味ではありません。年間エネルギー計算、在室中の室温制御、暖房負荷の時刻別シミュレーションでは、内部発熱のスケジュールを扱う場合があります。「暖房時は常にゼロ」と覚えず、どの計算が最大能力選定のための計算なのかを、計算書の条件欄で確認してください。
実務で確認するチェックリスト
☐ 平面図・家具レイアウトから、最大在室人数とその時刻を決めた
☐ 人体発熱の活動条件、室温、顕熱・潜熱の値を計算書へ記録した
☐ 照明器具表で、器具一式の入力電力と点灯区分を確認した
☐ 調光・消灯スケジュールを冷房ピーク時刻に合わせた
☐ OA機器を、PC、モニター、複合機、ネットワーク機器などに分けた
☐ OA機器は定格値だけでなく、運転時の消費電力・同時稼働率を確認した
☐ 機器の排熱先が同じ空調区画か、別室・屋外かを確認した
☐ 顕熱と潜熱を別列で集計した
☐ 時刻別計算では、放射・蓄熱の扱いを採用計算法にそろえた
☐ 暖房能力の計算では、内部発熱を見込むかどうかを設計条件で確認した
まとめ
室内発生熱負荷は、人体、照明、OA機器が室内へ出す熱と水分です。人体は顕熱と潜熱を分け、照明と一般的なOA機器は主に顕熱として集計します。人数は平面図と運用予定、照明は器具表と点灯区分、OA機器は機器表と実際の稼働状況から決めると、計算条件を説明できる形で残せます。
冷房では、室内発生熱を外皮・外気などの負荷と同じ時刻で重ねます。設計ピーク暖房負荷では、無人・消灯・機器停止でも不足しないよう内部発熱を見込まない仮定を使うことがあります。どちらも数値だけを流用せず、設計条件、図面、メーカー資料、採用計算法を一組で確認しましょう。
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参考・出典
- ASHRAE Handbook 2025, Chapter 18: Nonresidential Cooling and Heating Load Calculations(人体・照明・機器による内部発熱、照明の使用率、放射による時間遅れ、設計暖房負荷の仮定)
- U.S. Department of Energy / EnergyPlus Engineering Reference v24.2(Zone Internal Gainsにおける人・照明・機器の熱収支モデル)
- 建築研究所「業務用建築物のエネルギー消費量評価手法に関する基礎的調査(建研資料No.176)」(非住宅建築物の室使用条件と内部発熱に関する調査)


