【給水設備設計】予想使用水量の算定ガイド:3つの手法と実務の計算プロセスを徹底解説
給水設備の設計において、最も川上であり、かつその後のすべての設計品質を左右するのが「予想使用水量の算定」です。
使用水量の予測を誤れば、受水槽の容量が過大になり「水の滞留による水質悪化」を招くか、あるいは過小になって「ピーク時の水圧不足や断水」を引き起こすことになります。
本記事では、設備設計の実務において必須となる3つの算出手法について、その計算根拠から現場での注意点まで、プロの視点で網羅的に解説します。
給水設備設計の根幹をなす「予想使用水量」の重要性
給水設計の目的は、利用者に「必要な時に、必要な量を、適切な圧力で」供給することにあります。この「必要な量」を見極める作業が予想使用水量の算定です。
実務においては、以下の3つのフェーズで水量を把握する必要があります。
- 1日当たりの総使用水量 ($Q_d$): 受水槽の有効容量や水道局への納付金、ランニングコストの試算に利用。
- 時間最大予想給水量 ($Q_m$): 給水ポンプの能力選定や、高置水槽の容量検討に利用。
- 瞬時最大予想給水量 ($Q_p$): 配管径(管内流速)の決定や、直結増圧ポンプの選定に利用。
これらの数値を算出するために、「人員」「器具」「面積」という3つの切り口からアプローチします。
【POINT】なぜ「過大設計」は危険なのか?
かつての設計慣習では、余裕を見すぎて過大に算定する傾向がありました。しかし、受水槽が大きすぎると中の水が入れ替わるのに時間がかかり、残留塩素が消失して菌が繁殖しやすくなります。現代の設計では、「適正な余裕率」の見極めが技術者の腕の見せ所です。
1. 人員算定法:受水槽・ポンプ選定の標準モデル

人員算定法は、建物の利用人数を推定し、そこから水量を導き出す最も信頼性の高い手法です。実施設計段階で受水槽や給水ポンプのスペックを決定する際に用いられます。
算出のフローと基本式
まずは、建物の「有効面積」を算出することから始まります。
$$N = \text{延べ面積} \times \text{有効面積率} \times \text{有効面積当たり人員}$$
ここでいう有効面積率とは、延べ床面積のうち、実際に人が滞在して水を使用する場所の割合です。一般的に事務所ビルでは 60%〜70%、学校では 50%〜60% 程度で見積もります。
次に、1日の総給水量を求めます。
$$Q_d = N \times q$$
$q$ は「1人1日当たりの給水量」です。この値は建物用途によって大きく異なります。
【表】建物用途別の人員当たり給水単位(目安)
| 建物用途 | 1人1日当たりの給水量 (q) | 備考 |
| 事務所 | $60 \sim 100 \, \text{L}$ | 残業や厨房利用の有無で変動 |
| ビジネスホテル | $250 \sim 350 \, \text{L}$ | 宿泊客以外(レストラン等)は別途加算 |
| シティホテル | $400 \sim 600 \, \text{L}$ | 宴会場やランドリー設備を含む |
| 共同住宅 | $200 \sim 350 \, \text{L}$ | 1世帯当たり $2.5 \sim 3.5$ 人で計算 |
| 学校 | $40 \sim 60 \, \text{L}$ | 給食施設の有無で大きく変わる |
時間最大・瞬時最大への展開
実務で最も重要なのはピーク時の水量です。以下の順に算出します。
- 時間平均予想給水量 ($Q_{ha}$)$$Q_{ha} (\text{L/h}) = Q_d / T$$($T$:1日の平均使用時間。事務所なら8〜10時間)
- 時間最大予想給水量 ($Q_m$)$$Q_m (\text{L/h}) = Q_{ha} \times K_1$$($K_1$:余裕率。通常 1.5〜2.0 を見込みます)
- 瞬時最大予想給水量 ($Q_p$)$$Q_p (\text{L/min}) = (Q_m / 60) \times K_2$$($K_2$:余裕率。通常 1.5〜2.0 を掛けて算出します。ポンプ能力の決定値です)
【実務のコツ】自治体協議を優先せよ
どんなに緻密に計算しても、最終的には建設地の水道局が定める「給水条例」や「施工基準」が優先されます。特に受水槽容量の計算については、自治体ごとに独自の係数(東京都なら $Q_d$ の $1/2$ など)を持っている場合が多いため、図面を引く前の事前協議は必須です。
2. 器具数法(器具給水負荷単位法):配管径決定の決定打

「器具数法」は、建物内に設置される衛生器具(洗面台、大便器、シャワー等)の数から水量を算出する方法です。特に、配管サイズを決定する際には、この手法が不可欠となります。
器具給水負荷単位(FU)の考え方
すべての器具が同時に使われる確率は極めて低いため、単純に器具の最大流量を足し算すると、配管が太くなりすぎてしまいます。そこで、各器具に「重み付け(負荷単位:Fixture Unit)」を行い、同時使用率を考慮した確率統計的な流量を算出します。
器具給水負荷単位表(令和6年版 基準値)
| 器具の種類 | 私用 (住宅・客室) | 公用 (事務所・店舗) | 備考 |
| 洗面器 | 1 | 2 | 基準となる器具 |
| 手洗器 | 0.5 | 1 | |
| 大便器 (洗浄タンク式) | 3 | 5 | |
| 大便器 (洗浄弁 / FV式) | 6 | 10 | 瞬時負荷が最大 |
| 小便器 (洗浄弁 / FV式) | – | 5 | |
| 小便器 (自動洗浄付) | – | 3 | 現代の標準的な仕様 |
| 浴槽 (シャワー付混合水栓) | 2 | 4 | |
| シャワー (単独) | 1.5 | 3 | |
| 台所流し (住宅用) | 2 | – | |
| 洗濯機 (全自動) | 2 | – | |
| 散水栓 (呼び径15) | – | 3 | 連続使用時は別途加算 |

流量線図による瞬時最大流量の導出
各系統の器具負荷単位を合計した後、「ハンターの曲線」と呼ばれる流量線図を用いて、瞬時最大流量 ($L/\text{min}$) を求めます。
- 系統内の全器具の負荷単位を合計する。
- 換算表(流量線図)から合計負荷単位に応じた流量を読み取る。
- その流量を許容流速(通常 $1.5 \sim 2.0 \, \text{m}/\text{s}$ 程度)以下に収める管径を選定する。
【注意】フラッシュバルブの特殊性
大便器のフラッシュバルブ(洗浄弁)は、一瞬で大量の水を消費します。負荷単位法ではこれらを別枠で計算することが多く、系統内に1つでもフラッシュバルブがある場合は、流量が大きく跳ね上がることに留意してください。
3. 単位面積法:初期計画段階の羅針盤

まだ具体的な間取りや人員配置が決まっていない「基本計画」の初期段階では、延べ床面積から概算水量を算出する「単位面積法」が重宝されます。
概算水量の算出式
$$Q_d = \text{延べ床面積} \times \text{単位面積当たり水量}$$
この手法の目的は、受水槽を置くための「機械室のスペース確保」や、道路からの「引き込み管(本管取出し)のサイズ検討」にあります。
【表】延べ面積当たりの給水量基準(参考値)
| 建物用途 | 単位面積当たりの給水量 |
| 一般事務所 | $10 \sim 15 \, \text{L}/(\text{d} \cdot \text{m}^2)$ |
| 共同住宅 | $15 \sim 25 \, \text{L}/(\text{d} \cdot \text{m}^2)$ |
| 百貨店・店舗 | $20 \sim 30 \, \text{L}/(\text{d} \cdot \text{m}^2)$ |
| 病院(一般) | $40 \sim 60 \, \text{L}/(\text{d} \cdot \text{m}^2)$ |
単位面積法の落とし穴
単位面積法はあくまで「目安」です。例えば、同じ面積の事務所でも「コールセンター」のように高密度で人が働く場合や、逆に「自動化された倉庫」のように人がほとんどいない場合では、実際の水量は大きく乖離します。したがって、基本設計以降では必ず「人員算定法」による精査を行い、数値をアップデートしていく必要があります。
実務で差がつく!設計のプロが教える3つの重要ポイント
理論上の計算だけでなく、現場で発生するトラブルを未然に防ぐためのノウハウを紹介します。
① 受水槽容量と水質管理のデッドライン
一般に受水槽の有効容量は、「1日の予想使用水量の $1/2$」(または $4/10 \sim 6/10$)程度にするのが実務上の定石です。
- 少なすぎる場合: 断水リスクが高まり、ポンプの起動頻度が増えて機器の寿命を縮めます。
- 多すぎる場合: 水の滞留時間が長くなり、夏場などは残留塩素が48時間を待たずに消失します。
もし、将来の増築を見越して大きめの水槽を作る場合は、中間仕切りを設けるなどの対策を検討してください。
② 特殊負荷の加算を忘れない
計算式に含まれない「隠れた水量」に注意が必要です。
- 空調補給水: 冷却塔(クーリングタワー)がある場合、蒸発・飛散による補給水が必要です。
- 厨房用水: レストランがテナントに入る場合、一般事務所の数倍の水量が発生します。
- 散水・洗車: 大規模な緑地や駐車場がある場合、これらは人員算定法とは別枠で加算します。
③ 節水器具の導入による補正
最新の建築物では、4.8L洗浄の大便器や、自動センサー式の水栓が標準となっています。従来の設計基準値をそのまま当てはめると、20%〜30%程度過大になるケースが多いのが実情です。
実測値に基づき、設計者の責任において適切な下方修正を行うことが、環境負荷低減(SDGs)の観点からも求められています。
まとめ:精度の高い算定が建物の寿命を延ばす
給水量の算定は、単なる算数ではありません。建物の使われ方を想像し、リスクを予測する「未来のシミュレーション」です。
- 企画段階: 単位面積法でスペースを確保
- 基本設計: 人員算定法で受水槽・ポンプを決定
- 実施設計: 器具数法で配管径を追い込む
この3段階のステップを踏むことで、手戻りのない、かつ運用コストの最適化された給水設備が実現します。
【POINT】設計の最終確認
算出した数値が「本当に妥当か?」と迷ったら、類似用途の既存建物の「水道検針データ」を確認するのが最も確実な検証方法です。実測値に勝るエビデンスはありません。
【付録】建築設備士・管工事施工管理技士試験の要点チェック
資格試験において、本テーマは非常に出題されやすいポイントです。以下の要点を暗記しておきましょう。
- 人員算定法: 有効面積当たりの人員(人/$m^2$)に有効面積を乗じて、建物の利用人数を算出する。
- 1日平均給水量: 受水槽の有効容量の基準となる数値。
- 器具給水負荷単位法: 負荷単位(FU)を合計し、同時使用を考慮した「流量線図」から瞬時最大流量を求める。
- 受水槽の有効容量: 一般に「1日の予想給水量の $1/2$」を標準とする。
- 時間最大給水量: 時間平均給水量の $1.5 \sim 2.0$ 倍程度。
